金木犀




「可愛かったんだ。あのころの奈々。


小さいくせに、ねーちゃん支えようとしてて。


今になって奈緒が言うんだ。


あの頃は、自分が奈々を守ってる気で居たけど、本当は奈々に守られてたんだって・・・」



わかるような気がする。



わがまま言ったり、拗ねたりするけど、そんなの可愛いもんで。


奈々は一番周りを見てて、人の顔色伺ってる。


明るくて、無邪気そうに見えて、しっかりしてるんだ。




「だから、一番頼れる男になろうって高校生の時思ったんだ。奈緒のことも、奈々のことも、ちゃんと守ろうって・・・


くそガキのクセにさ。」


小さくため息混じりにトヨさんが下を向く。



「奈々は自分の笑顔で周りが幸せになるって知ってる。だけど、それがかわいそうでさ、辛くても、寂しくても、無意識に笑っちゃうようになってるんだ。小さい時からずっと。」



ゆっくり俺の方を向き、真剣な目をするトヨさん。




「ちゃんと見てやれよ。軽い気持ちで近寄るな。大事にしないといけない子なんだ。」




その目に、俺は固まる。



トヨさんの気持ちがいっぱい詰まったそのセリフを頭の中でかみ締める。




「俺・・・本気です。絶対大事にする。約束します。」



ひざの上で拳を握り締め、トヨさんの目を見る。





トヨさんはまた下を向いて・・・





「だから、イヤなんだよ。知らないヤツに傷つけられたって、世の中そんなこともある、強くなれって言えんじゃん。相手をとことん悪もんに出来んじゃん・・・


だけど


お前だと出来ねーじゃん・・・・




俺の気持ちも考えろ。」



深い、深いトヨさんの気持ちを聞いて、やっぱこの人すげーやって。



この人には絶対敵わないって本気で思った。



俺が小さく頷くと、クシャっと髪をつかまれ。



「飲めよ、今日は。おごっちゃる。」


ニカっといつものトヨさんの笑顔に戻った。


「はいっ」





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