クリスマスの夜に

 術野を広げ患部があらわになると一人の助手が「おおっ」と声を上げた。

「初めてですよ、生で人の体内をこの目にすのは。動いているんですね。それに臓器が綺麗だ」

「君からそんな言葉が出ると思ってもいなかったよ。そうだ、生きているんだ。臓器が生きているからこの患者は死んではいない、生きている。その生きる力を僕らは幾度となく繋いできた。こうして、直接患者の体内に触れ、感じ、読み取ってきたんだ」

「光栄です。あの矢代先生と共に、こんなにも貴重な体験をさせていただいているなんて、感慨無量です」
「おいおい、そこまで言われると、いささか照れるじゃないか」

「そんなことはありません。ご無理を言って時を超えていただいたんですから」
「ふぅ、そうだな。長かったよ。こうして彼女にまた出会うことが出来るなんて思いもしなかったからな」

 俺は矢代巧《やしろたくみ》外科医だ。
 だがこの時代の人間ではない。それを言うのなら俺はこの時代の、この世界の人類ではないというのが正しいだろう。
< 11 / 45 >

この作品をシェア

pagetop