俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
『厄介なのは藤堂商事のお嬢さんなのよね』

数日前に電話でそう教えてくれたのは百合子さんだ。


『社長夫人が娘の縁談を諦めていなくて、各所で采斗の花嫁は誰か調べているみたいなの』

頭から冷水をかぶせられた気がした。


藤堂商事、という会社名に胸がざわつく。

プロジェクトの最有力競合相手であり、元恋人の勤務先でもある。


『あの子も日野原家としてもキッパリ断ったのよ。けれど藤堂夫人がずいぶん乗り気だったの』

『それは、なにか特別な理由があるのですか?』

日野原家と強い繋がりでもあるのだろうか。


入籍してからできるだけ、日野原家と付き合いの深い家々の名や繋がりを私なりに学習してきた。

師となってくださったのは百合子さんと笹野さんだ。

たとえ期間限定の妻だとしても手を離すその瞬間まで、あの人に恥ずかしくない存在でいたいから。


好きな人のため、恋人のために自ら変わりたい、努力したいと真剣に願うなんて今までなかったように思う。

孝也の時はそんな風に考えた記憶がない。


あの人は私にたくさんの幸せと変化をくれる。

そのすべてに心から感謝して、益々惹かれているのだといつになったら伝えられるだろう。


最近では彼への想いが私の意思とは無関係にどんどん膨らんで、心に抱えきれなくなっている。

ふとした瞬間に、心の隙間から漏れそうになってしまう。
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