俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
優しい上司の声に必死に堪えていた涙が決壊する。

みっともないとわかっているのに、嗚咽が止まらない。


こんな場所でこんな醜態をさらすなんて営業妨害もいいところだ。

わかっているのに止まらなかった。


「さっき副社長室であなたの姿を見た時、胸騒ぎがしたのよ。だからあなたに会わなくちゃと思ったの」

「そうだったんですか……」

「誤解のないよう言っておくけど、私が副社長の自宅を知っているのは女性が住みやすく通勤も便利な場所にある物件はないかって散々相談されたからよ。そんなの本人に尋ねてくださいって何度も進言したのよ」

「そうだったんですか……」

「すべてにおいて自信満々な副社長があなたが絡むと途端に臆病になるのよ」

初めて聞く話に胸の奥がくすぐったくなる。


私の知らないところでずっと想っていてくれたの?


「如月さんはどうしてそこまで私を気にかけてくださるんですか?」

「お互いがほんの少し手を伸ばせば届くのに、もったいないでしょ。片想い中の私からしたら歯痒いだけよ。なにより私に飲料開発の楽しさを教えてくださった副社長には幸せになっていただきたいもの。それとも私が副社長に恋をしているほうがよかった?」

「い、いえ」

「冗談よ」

そう言って口角を上げる、上司の温かな心遣いに胸がいっぱいになった。


心の中に溢れ出す、あの人への想い。

自分の目に見えるものだけが真実だと思っていた。


彼の心は如月さんだけのものだと思っていた。

わかっていても、それでもこの恋を、想いを捨てきれなかった。


采斗さんが、好き。


その気持ちだけは、ほかの誰にも負けない自信があるから。

勇気を出して采斗さんに告白したい、本心を告げたい。


なによりも今、あの人に会いたい。
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