俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「俺たちも帰ろう」

「お会計を……」

「今、済ませた」

「藤堂副社長にお礼とお詫びを……」

「俺が伝えたから必要ない」

「あのっ……!」

「これ以上なにか言うなら抱えるぞ」


店を出て早足で歩く彼の台詞に目を見開く。

いつもと違う、どこか緊迫した様子にたじろぐ。


家を飛び出したから怒っているのだろうか。

心配もかけてしまったし、捜し回らせてしまった。


でも、知りたい出来事が、聞きたい話がたくさんある。

どう声をかけたらいいのだろう。

無意識にうつむいてしまう。


「……好きなだけ怒っていいから。でも頼むから、俺のそばからいなくならないでくれ」

聞こえてきた、独り言のような声。

ハッと頭を上げると泣きそうな彼の目にぶつかった。


どうして、そんな目で私を見るの?


「詠菜がいなくなったら、どうしていいかわからない」

絡められた指に力が込められる。

伝わる熱が、この人の想いを物語る。


「心臓が止まるかと思った」

呟く声はひどく弱々しい。


いつもあんなに堂々としているのに、滅多に慌てたりしないのに。

悲痛ささえ感じられる声に胸が締めつけられ、返事ができなかった。


そのまま、彼は私の手を引いて自宅マンションのエントランスを抜ける。

歩く最中も私がいるのを確かめるかのように何度も視線を向ける。

綺麗な目には不安の色が濃く滲んでいた。
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