俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「お前の直属の上司と如月には妊娠について伝えておくが構わないか?」

「でも……」


如月さんはともかく総務課の皆は私が結婚しているとは知らないのに、大丈夫なのだろうか?


言い淀む私の気持ちが伝わったのか、夫はほんの少し口角を上げて私の頬を長い指で撫でる。


「大丈夫、俺に任せて」

「采斗さん?」

「今度こそ、俺にお前を守らせて」

真摯な目に射抜かれるが、言われている内容がわからない。


「采斗さんはこれまでも十分、守ってくれていたよ?」

「……言葉が足りなくて散々悲しませて傷つけた、の間違いだ」

「その話は昨日たくさんしたでしょう? もうお終い」

お互いの胸の内をきちんとさらけ出した。

ふたりで何度も“ごめんなさい”を言い合った。

それで十分だ。


これ以上蒸し返すつもりはない。

なにより、心がすっきりしていて今はとても晴れやかだ。

愛する人が与えてくれる影響力を改めて思い知らされる。


「本当に俺の妻はどこまでもお人よしで、優しいな」

困ったように眉尻を下げた夫は身支度を始める。

その様子に私もベッドから抜け出る。

自室に向かおうと一歩足を踏み出す。


「以前から思っていたんだが、これからはここで一緒に身支度をしないか?」

誘いの声が背中から追ってくる。


「でも、荷物を動かさなくちゃ……」

唐突な申し出に驚きつつ、振り返って返答する。


そんなのは些細な問題だとわかっているのに焦ってきちんと話せない。

そんな私の心中を見透かしたように夫はクスクス楽しそうな声を漏らす。


「それは俺がするから問題ない。詠菜に関しては短気で強引だって知ってるだろ?」

色香のこもった眼差しを向けられて、それ以上反論できなかったのは言うまでもない。
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