俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「送ると言ってるだろう。もう一度抱えられたいか?」

「遠慮します」

必死に首を横に振る。


「そう言えばお前、友人の結婚式はいつ、どこであるんだ?」

「どうしてですか?」

「いいから」

訝しみながらも場所と日程を告げると、なぜか彼は少し考えるような表情を浮かべた。


「あの、荷物を返してください。本当にもう大丈夫なので、家もすぐそこですし」

「なんで祖母には連絡先を伝えて、俺には教えない?」


どうしてそれを知っているの?

いつから見てたの?


唐突な問いかけに紙袋を取り返そうと伸ばしていた手が止まる。

その瞬間、先日のようにほつれた髪を優美な動作ですっと耳にかけられた。

骨ばった長い指が頬を掠め、耳に僅かに触れる。

ビクッと身体を揺らす私の目を、副社長が真剣な面持ちで覗き込む。


「教えないなら荷物は返さないし、家まで送る」

まるで子どものような主張に戸惑う。

「どうして……」

「知りたいから。結婚相手の連絡先を知らないなんてありえないだろ?」


結婚相手って……からかっただけじゃなかったの?


「あのプロポーズは冗談でも気の迷いでもないからな」

私の心中を読んだかのように言い放つ。


「連絡先を知らないと傘も返せない」

「社内の内線電話があります」

「堂々と総務課に電話して、呼び出してほしい? お前、俺との関わりが周囲にバレるの嫌がってなかったか?」

俺は一向に構わないが、と楽しそうに口角を上げる。


墓穴を掘ったとしか言いようがない。
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