悪魔の花嫁


その少女と出会ったのは夏であった。
 茹だるような熱気に、蝉の声も心なしか元気がない。
 境内の玉砂利は白く輝いて目に痛い。
 逆に社の影は濃い漆黒、その落差に目眩がしそうな日中である。
 僕は人種的に日光には弱い。
 色素の薄い目を精一杯細めて彼女の姿を黙視する。
 白い小袖、緋袴の小さな巫女は僕に言った。
「かみさまは、なにもしないわ。」
 幼い巫女は汗一つかかず、清涼な空気をその身にまとっている。
 おかっぱ頭の黒髪がさらさらと風になびく。
 綺麗な黒髪は一枚の光る布のように輝く。
「神様が、何もしてくれないのなら、何故、人はここで祈るの?」
 俺は巫女に聞く。
 真摯に、答えを待つ。

「ひとは、ねがうだけ。かみさまは、なにもしないのよ。ねがいごとは、じぶんに。じぶんの、心だけに、ねがうのよ。」

 蝉の声が一瞬消える。
 俺の視界には彼女しかいない。
 彼女だけが、僕の視界で輝く。

 俺の知っている異教の神々とは違うようだ、だが、それはきっと真実だ。
 欲しいものは、願い事は、自分で手に入れなければならない。

 祈りは届かない。
 願いは、ひとつ。 

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