秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

思い慕う人の寝顔を見ながら、心の中で問いかける。少し触れていた手は、いつの間にか両手でアルフォード様の手を包み込むように強く握ってしまっていた。

多大なる決心のため、感情の昂ぶりを抑えずにはいられない。



(アルフォード様……)



……私、絶対公爵領に、あなたのところに戻ってきます。

母の思い出、あなたと過ごしたラベンダー畑に必ず戻ってきます。



だから、アルフォード様もーー二人で前を向いた、あのラベンダー畑で。待っていてもらえますか?



一方的に問いかけ、願うことで自分に発破をかけていたのかもしれない。

このような弱っている状態のアルフォード様を置いていくなんて、お傍にいられないなんて、本当は嫌だ。

……でも、私は行かねばならないのだ。



グッと堪えて、その手をそっと離した。

踵を返し、彼を背にして私は前に進む。



全ては、精霊王様の思し召し。

だからもう、逃げることはしない。





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