秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

目の前の仏頂面男が、浅く頷く。


「アルフォードと引き会わせれば、ラヴィが何とかしてくれるのでは、という淡い希望があってのことですが。なんせ、ラヴィには自分が【魅了】を解いたという自覚がありません」

「それは、おまえらがラヴィに何ひとつ大事なことを伝えてないからだろが。んっとに、神殿のガチガチ連中は……」

「ガチガチでナンボですよ、我々は。そうでないとこの世は無法地帯になってしまいます」

「そりゃそうだけどよ……」



この世には、堅固な砦があるからこそ護られている秩序がある。

なので、それは正論。と言わんばかりで、平和が保たれているのは否めない。

神殿がガチガチ石頭だからこそ、蔓延る邪悪な力に備える余裕がある、のだが。



「そういうわけで、王太子の犬が一匹、この屋敷に紛れてくると思いますが、ご容赦ください」

「ご容赦くださいとはなんだコラ。……こっちも手配済みだよ。ラヴィのためだ」

「そうでしたか。……それでは、この話はこの辺にしておいて。公にとっては、ランクルーザーと恋仲の聖女の話も重要じゃありませんか?」

「その話か?ああぁぁ……やめてくれ。頭が痛ぇわ」



いろいろと抱える問題が多すぎる。長子が家督を継がずに聖騎士でいる理由が、まさか恋人だとは。

次子のことも、亡き親友の愛娘の件もこれで終わりどころか何かしら始まるというのに。

次々と襲ってくる頭の痛みを逃がすかのように、天を仰いでまたため息をついたのだった。





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