イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
 こんな髪型で行けば張り切って来ましたと言ってるようなものだと、シャワーで元のストレートに戻し、いつも通りハーフアップにしておいた。白のブラウスの襟に重なって、ブラウンの毛先が揺れる。ライトグレーのパンツスーツ姿は、自分で見ても思わず突っこんでしまう。


「会社か!」


 けれど、これでいいのだ。私が地味なのは普段からのことで相手もそんなことは知っている。今日に限って華やかな装飾をするほうがおかしい。さほど大きくもない目には、マスカラも施していない。長い睫毛だけが唯一自慢できるところだろうか。ぷくっとした唇はコンプレックスで、少しでも目立たないようにとくすんだ色味のリップカラーばかり使っている。

 それ以外は可もなく不可もなく、のこの顔で、今日は世紀のイケメンと対峙せねばならない。

 営業部期待のエース、佐々木郁人(ささきいくと)、その人に。



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