イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

「ねえ、隣に行っていい?」

テーブルを挟んで座っている彼女が言う。
早く来てくれ、と眉を寄せて黙っていると、障子の向こうで足音がした。

「失礼するよ」
「えっ?」

常盤かすみが驚いてそちらを向いた。
それと同時に、からりと障子が開けられる。そこに立っている人物に、彼女の目が大きく見開かれた。

「遅いですよ」

その人物に向かって苦言を呈すると、ひょいっと肩を竦めて笑う。

「文句を言うなよ。まったくお前は人使いが荒い」

そう言いながら、俺のとなりに胡坐をかいた。不審げに眉を顰める常盤かすみに向かい、にっこりと人の好い笑みを浮かべた。

「直接会うのは初めてかな、常盤家のお嬢さん。私は、動木と言います」
「……動木建設の社長でいらっしゃいますね」
「ええ、その通りです」
「どうしてそのような方がここに?」

彼女はますます警戒心を募らせる。
俺に向け、非難めいた視線を寄越した。

「謀ったのね、郁人さん」
「それはお互いさまだろう。歩実に接触して離婚を迫ったことはわかってる。それから、主昭を匿ってるのが誰かということも」

空気にぴりりと緊張感が増す。
その中で呑気な声を出せるのは、年の功というやつだろうか。

「まあまあ。お嬢さんもそうぴりぴりしないで。これは、ちょっとした商談なんですよ」


< 252 / 269 >

この作品をシェア

pagetop