恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
いきなりの無茶ぶりに、夢はどうしていいかわからなくなってしまう。
敬語を使わないのだけでも恥ずかしいのに、呼び方も変えるとなると一気にハードルが上がる。
緊張のしすぎなのか、目がうるうるとしてきてしまう。それでも、彼はニコニコと夢の言葉の続きを待っている。
夢は、俯きながら小さな声で、「律紀………くん。」と呼んでみた。
呼び捨てだとハードルが高すぎるし、だからと言ってあだ名などつけられるはずもなく、1番言いやすい君付けにしてみることにした。
自分より年下だし、いいかなぁと思ったのだ。
囁くように言ったので、律紀に聞こえているのだろうか?
それに、彼はその呼び方を許してくれるだろうか?
夢はそれが気になって、恐る恐る目線を彼に向けてみる。
すると、ニッコリと微笑んで、「はい、夢さん。」と、嬉しそうな表情を見せていた。
何故年下の彼の方が、冷静なのだろうか?
恋愛経験がないというのは、嘘なんじゃないか。夢はそんな風に思ってしまう。
「なんか、ズルイ………。」
「え………?何でですか?」
「………秘密です。」
「あ、敬語。」
「秘密っ!」
夢はプイッと外を向いて、怒ったように口を尖らせてしまう。
けれど、律紀はそんな夢を見ても、ニコニコと笑っているだけだった。
律紀からの提案で始まった、敬語禁止と呼び方のお陰で少しだけ彼との距離が縮まったように感じられた。
間違いだった関係だけど、それでも良かったのかもしれないと思ってしまうぐらい、夢はこの時間が幸せで心地がいいものになっていた。
始めて律紀から貰った、緑色の宝石のようなカップを持って、夢はつかぬ間の幸せに浸っていた。