恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
映画はハッピーエンドでも切ない場面が多くあり、夢は中盤からうるうると涙を浮かべてばかりだった。隣の律紀に見られてしまうのではないか。そう思うと恥ずかしい気持ちもあり、夢は涙を流すのを必死に堪えていた。
けれども、ラストに向かっていく中で、我慢できるはずもなく、ボロボロと泣いてしまっていた。
夢は律紀にバレないようにこっそりと鞄からハンカチを取り出そうとした。
すると、隣から律紀がグレーのハンカチを差し出してくれるのが見えた。
きっと自分が泣いているのに気づいて、ハンカチを貸してくれるのだろう。そう思って、周りに人はいないけれど、小さな声で「ありがとう……。」と言って、ハンカチを受け取ろうとした。
けれども、その手でハンカチを取ることは出来なかった。
変わりに夢が感じたのは、目元にふわりとした感触と、彼の土のような香りだった。
律紀は鉱石に毎日触れているからか、近寄った時に、フワッと大地の香りがする。
その香りを感じるのが夢は好きだった。その好きな香りが、律紀のハンカチから香った。
そして、そのハンカチで夢の目元の涙を、律紀はトントンと優しく拭ってくれた。
律紀の行動に驚いて、スクリーンの光に照らされた彼の顔を見上げると、そこには少し心配し、困ったような顔で夢を見つめる彼がいた。
「大丈夫?たくさん泣いてる……。」
「ご、ごめんなさい。私、こういうのすぐに泣いちゃって。泣きすぎだよね。」
「……謝らなくていいよ。このハンカチ、使って。」
「………ありがとう。」
泣き顔を見られてしまい、夢は恥ずかしそうにしながらも彼にお礼を言って、ハンカチを受け取った。
律紀は、小さく微笑むとその後はスクリーンを見つめてしまう。
夢は、彼の横顔をこっそりと盗み見してしまう。
少し短くバラバラの黒髪に眼鏡。その眼鏡の中には綺麗な黒々とした瞳がある。鼻も高くてシュッとしており、全体的に整っている。そのせいなのか、やはり年上に見えるなと思ってしまう。
そして、今日の彼はどう考えても女慣れしているように感じてしまう。
研究室での彼と、目の前にいる彼は本当に同じなのだろうか、なんて考えてしまう。
けれど、そんな律紀の優しくて甘い対応に、夢は惚れ惚れとしてしまい、本当の恋人同士のデートのように感じていた。