恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
その時だった。
ロックもなく、急に実験室の扉が開いた。
夢は驚きのあまりビクッと体を震わせ、そして咄嗟に伸ばしていた右手も、すぐに自分へ引き戻した。
「失礼します。」
「………望月。それはロックをしてから言う言葉だぞ。」
「律紀先生がいつも居留守使うからです。」
「お前がそうやって勝手に入ってくるからだろう。」
実験室に入ってきた女性は、可愛いウエーブのかかったロングの茶髪に、黒々と大きい瞳。そして、女の子らしくとても身長が小さな、とても可愛らしい女の子だった。見た目から大学生だと言うのがわかる。
「夢さん、ごめんなさい。僕の生徒の望月ひなです。望月、挨拶して。」
「こんばんは。」
機嫌が悪いのが、目をつり上がらせ、口元も尖らせて夢に棒読みで挨拶をした。
夢は少し困った顔を見せながらも、それでも微笑んで彼女を見た。
「初めまして、十七夜夢です。おじゃましてます。」
夢が挨拶をするけれど、望月はプイッと顔を背けてしまう。
それを見て、律紀はため息をついて夢を見つめて、目で「ごめんなさい。」と伝えた。
「望月、何が用件だ。」
「…………私の研究レポートみてくれましたか?」
「いや。これから見るよ。明日には添削して返却する。」
「…………律紀先生、最近研究も進んでないですよね?」
「あぁ……悪いな。入試などもあって忙しいんだ。」
律紀は、苦笑しながら望月に謝るが、彼女は全く納得しないようで、今度は律紀を睨むように鋭い目線で見つめた。
「この人が来るようになってからですよね?わけわかんない鉱石調べて何になるんです?」
「僕は調べたいから調べているんだよ。」
「………律紀先生にはもっとやらなければいけない事があると思います。この人との時間なんて、無駄です。」
「望月。」
吐き捨てるように強い言葉を律紀に投げつけた望月を、律紀はいつもより強くて大きな声で止める。けれど、そんな態度にも望月は恐縮もせずに、さらに彼を睨んだ。
そして、「お邪魔しましたっ!」と、言うとヅカヅカとドアまで歩いてドアをバタンと強く閉めた。
彼女がドアを閉める瞬間、とても悔しそうに夢を見つめていた。それを、見た瞬間に夢はわかってしまった。
彼女は律紀の事が好きなのだと。
その表情を見てから、夢は胸がバクバクと激しく鳴り、しばらくの間律紀の顔を見ることが出来なかった。