恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
すると、律紀が何故か急に後ろを向いて夢を見つめると、ドンッと玄関のドアに右手を付いて、夢の動きを止めた。
「え………。律紀くん。」
夢は、律紀の予想しなった行動に、思わず体を震わせて目を見開いた。
これは、所謂少し前に流行った「壁ドン」というものなのだろう。
けれど、何故このタイミングで彼が自分にそんなことをするのかがわからなかった。
何か怒らせる事をしてしまったのか。それとも、やはり若い男の人の家に行くということは、恋人のような事を求められていたのか。
そして、彼はそんな男らしく自分を求めてくれるのだろうか。
夢は自分でも驚きながらもそんな事を思っていた。
彼が求めてくれるのが嬉しい。
そんなはしたい………そんな風に頭では思いながらも、胸が高鳴っていた。
「……夢さん、こういう何て言うんだっけ?」
「え?………壁ドン?」
「あ、そうだ。壁ドンは好き?」
「……………。」
律紀は、目をキラキラさせてそう聞いてきた。そこには、男らしい色気のある目線や、緊張感は全くなかった。
きっと、また漫画本であった事を試してみたかったのだろう。
さきほどまで、ドキドキしていた夢は一気に冷静になった。
夢は少し残念な気持ちがあるのを、律紀にも自分にも隠すように、少し怒った顔で律紀を見つめた。
「……あれ?夢さん、これ好きじゃなかった?」
いつもの反応とは違うのに、律紀も気づいたのかそう言って夢を見つめていた。
夢は、彼の体を優しく両手で押して、壁ドンから逃げた。
「好きだけど、今のはドキドキしないよ。」
「そうなんだ………?」
「シチュエーションっていうか、その場面に合ってないと意味がないんだよ。」
「そっか………難しいんだね。」
玄関先で考え込むように、「いつならいいのかな?」とブツブツと独り言を言っている律紀を見て、夢は思わず笑って強いそうになった。
夢は、先に靴を脱いで置いてあった荷物を持つと、「律紀くん、早くしないと先に鉱石の光、見ちゃうよー?」と、彼を呼ぶ。
すると、「あ、待って!荷物も僕が持つから。」と、律紀は慌てて夢を追いかけた。