恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
『夢?久しぶり!全然帰ってこないけど元気なの?』
「うん。お母さんは元気そうだね。」
『お正月も帰ってこないで。ちゃんとした人と交際してるんでしょうねー?』
20代後半になってから、母親はいつも結婚の話を聞いてくる。
心配してくれるのは嬉しいけれど、今の夢には心が痛む言葉だった。「契約の彼氏ならいたよ。」なんて言えるはずがなかった。
「彼氏なんていないよ。仕事頑張ってるからさ。」
『なんだー。早く紹介しなさいよ。』
夢は、病院から近くの駅まで歩きながら、思わず苦笑してしまう。
恋人なんていないので、母親に紹介するなんて大分先の事だろう、と心の中で母親に謝罪した。
「お母さん。それより、電話してきたのは何か用件があったからじゃないの?」
「あぁ!そうだったわ。」
重要な事を忘れていたようで、母親は電話口で大きな声を上げていた。
『あのね、夢っ!昔の事故の時に、助けてくれたご夫婦がいたでしょ。海外に住んでいた。』
「えぇ。私の恩人さんでしょ?仕事で世界中走り回ってるって。」
『そうなんだけど、武藤さんたち、一時的にやっと日本に戻ってきてるみたいなの。しかも、今日に。』
「え………今日!?」
『たぶん、今夢が住んでいるところとは近いはずだから。あなた、会いそう?ちゃんとお礼言って欲しいんだけど。』
それは驚きの内容だった。
夢が事故にあった時、助けてくれたの若い夫婦がいた。その夫婦は武藤さんと言い、彼らも事故のせいで軽い怪我をしたり、トラックに積んでた商品が道に投げ出され壊れたりしていたのに、怪我をした夢を1番に手当てしてくれたそうだ。
1度呼吸が止まっていた夢に、心肺蘇生で助けてくれたのだ。
けれど、夢が意識を取り戻す頃には2人はすでに海外へ行ってしまっており、夢は電話や手紙のみで彼らとコンタクトをしていたのだ。
最近は1年に1度事故の日に彼らに、メールを送るようにしていた。
自宅のパソコンから送っていたので、彼らのメールに気づかなかったのかもしれない、と夢は思った。
「うん。なんとか予定開けて会いに行く。命を助けてくれた人たちだもの。しっかりお礼を言わないといけない。」
夢が以前住んでいた場所は田舎だったため、もし事故が起こった時に誰もいなかったら、夢を助け救急車を呼んでくれる人がいなかったかもしれないのだ。
夢が今こうして生きているのも2人の夫婦がその場にいてくれたからだ。
それに、お守りに彼らがくれたのであろうスマホに付けている緑の鉱石のキーホルダーのお礼もしたかった。
それがあったから、意識を取り戻せたのだと夢は信じていたのだ。