恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。

 
 「夢ちゃんのお友だちじゃないの?ほら、事故の時に一緒にいた。」
 「え………私事故にあった時は1人でしたよ?」
 「そんなはずはないよ。僕たちが救護している時に、お友だちが君の名前を呼んで、泣いていたからね。」

 
 夢はそれを全く覚えていなかった。
 友達はお見舞いに来てくれたけれど、そんな事を言っていた人は誰もいなかったし、母親からも聞いていない。
 ………何かを忘れている?


 そう思った瞬間、軽い頭痛がして夢は少しだけ顔を歪めた。けれど、すぐにそれは治まり、普段通りになる。
 夢はその痛みが何なのか、全くわからなかった。


 「それにその子からの依頼で、今回は日本に来たのよ。」
 「そうそう。そして夢ちゃんからも連絡がついたからてっきり2人はまだ友達なんだと思ったんだ。」
 「あの………もしよかったら名前を聞いてもいいですか?何か思い出せるかもしれないので。」
 「………夢ちゃん、本当に覚えてないのね。事故のせいかしら。」


 絵里はそういうと、心配そうに夢の顔を見つめた。
 そして、隣りに座ってた空も夢を見つめていたけれど、そこに優しく自分の娘を見るような瞳があった。


 「僕たちに子どもはいないから、夢ちゃんを娘のように思っているんだ。飛び回っている放浪な両親だけど、君には幸せになってほしいと思っているよ。」
 「空さん………。」
 「昨日会った人は随分前から、いろいろ君のために頑張ってくれてた人のようだ。だから、君は会った方がいいだろう。……こんなに大切にしてくれる人がいるんだってわかれば、自信が持てるんじゃないかな。」


 そういうと、1枚の名刺を取り出して夢の前に置いた。
 

 「昨日、その人から貰ったものだよ。」
 「ありがとうございます。」
 「………名前は、皇律紀。鉱石学の研究者になっていたよ。」


 空が口にした名前。
 そして、目の前の名刺から夢が今想い続けている彼の名前が入ってくる。


 皇律紀。
 




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