舞風
桜色
それは何処までも延々と続く蒼い空。田中市助(たなか・いちすけ)という青年がいた。

彼は国の為に何かしらの貢献をしたいと願う、十八歳。市助が彼女と出会ったのは淡い春の日の事。

何時ものように賑わいを見せる街中。本を片手に考え事をしていた市助はとある女とぶつかり我に返った。

本は音を立てて地面へと落ちる。しかし市助はそれよりもぶつかった女の方が気になっていた。

「大丈夫ですか」

女はその言葉にうなずき、市助が落とした本を拾おうとする。

自分の過失だと言うのに拾わせるのは申し訳ない市助。すぐに女と同様にしゃがみこみ、本を手にしようとする。

すると市助と女の手はそっと優しく触れあう。女の頬は桜色に染まる。異性の手に触れた事がなかったのだろう。

市助も同様に頬を桜色に染める。手はすぐに離れた。


「ごめんなさい。前を見ていなかった私のせいです」

「僕の方こそ、見ていなかったのがいけません」


そしてまた二人は頬を染め合った。


「お怪我はありませんでしたか」


女が聞く。本来は男である市助が聞くのが礼儀だと言うのに。

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