叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
『はい、どんどん歩くよー。』






私の真後ろに立っているのは出張から帰ってきたばかりの藤堂先生。





『ちゃんと歩かないと、腸が癒着しちゃうからねー。』






もぉ……こういう時に限って、貧血出ないんだからぁ!






久しぶりに歩くから、足がおぼつかないのと、まだまだ傷が痛くて辛い。
この痛みでは、もう痛み止めは飲ませてもらえない。というより、飲み続けてたせいで、効かなくなってるらしい。こんな酷い(むごい)ことあっていいのか。






『はい、西病棟終わり。続いて東病棟の端から端までいくよー。』






ぇえっ!?東病棟っ!!!






あ、会える!?梶田先生に会える?






廊下は白衣を着ているお医者さんらしき人はいない。
梶田先生、今は回診中なのか…、それとも医局にいるのか。






痛みを忘れてつい早く歩いてしまう。
え?どこ?どこなのー?






『ん?どうした?』





会いたい一心で足早になっていく。






『おいおい、どうした?』






ん?あれは?






東病棟の病室から出てきて、奥の部屋に入ろうとしているのはもしかして、梶田先生?






とさらに足が早く動く。






っとその時!?






ガシャーン!!!!!!







「いったぁーい!!」








持っていた点滴スタンドから垂れていた点滴チューブをしっかり持っていなかったからか、私が早く歩いた時に足を引っ掛けて、そのまま廊下に点滴スタンドとこけてしまった。






「痛い痛い痛い…。」






『おいっ!大丈夫か!?』






術後の痛みが蘇ってくる。あまりの痛さにエビのように丸くなってしまう。
お腹を触ると血が出てきてしまったのか、ヌルッとしてる。






そこに走って現れたのは、






『大丈夫ですか!?』







梶田先生ー!!!






あぁ、どうしていつもこんなにみっともないところを見られるんだろうか…。私はついていない。






『あぁ、ちょっといかんねぇ。処置室行こうか。』






え?え?えー?






処置室はこの階のナースステーション内に隣接している。
小さい子供が点滴を入れられる時か、今回みたいに部屋ではできないような処置のときに使われる。







昔からこの病院を出入りしている私にとっては、地獄部屋と思えてしまうほど怖い部屋。






「ぃぃって!もう大丈夫だから!」






あんなところ、行かなくても大丈夫だから!!





『ダメダメ。ほかっておいたらとんでもないことになるから。はい、行くよー。』




淡々としてる藤堂先生。






『僕も手伝いますね。』






と、こんな場面では会いたくなかったと思っている時に限って、処置までしようとする梶田先生。






「ほっんとに、いいからーーーーー!」





そんな言葉も虚しく、ストレッチャーに乗せられてしまった……。
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