叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい

喉を通らないってこういうこと…。





お昼も夜も、何も喉を通らない……。水さえも口にしていない。
これでは体がもたないことくらいわかるけど、それでも何も通らない。





『何も食べないのはいくらなんでも良くないぞ。』





もう帰ってもいい時間なのに、藤堂先生は白衣のまま病室に入ってきた。





『食べないと薬さえも飲めないものばかり、せめて一口くらいは。』







明日からどこかの県で学会発表と聞いた。それに参加するため一週間も出張だというのに。





「先生、もう大丈夫だから。」





布団から顔を出して答える。






『ん?』




何が?とでも言いたそうな顔。




「帰ったら?」




主治医に対する口の利き方は悪いけど、今の私はそんなことに気を遣えないくらい打ちのめされている。どうやって気持ちを入れ替えたらいいのかもわからない。このままこの憂鬱な気持ちのままだったら・・・。



『ご心配ありがとう。俺は明日のことより今日のことの方が気になって眠れないから、このままでは帰れないな。




もう食べないのか?』






顔を縦に振って答える。





それを見ると、ベッド横に椅子を持ってきてどかっと座る。





も〜マジで帰ってよぉ。今の私は情緒不安定なんだから。これ以上喋ったら藤堂先生に生意気言って怒られるよ。





『俺の説明は全く聞いてなかったけど、梶田先生の説明はしっかり聞いてくれたみたいだな。』





おかげで今相当なダメージを受けてます。っていうかニヤッと笑って、何を知ってるんだこの人は……。





私が目を細めると、藤堂先生は私に向き合うように姿勢を正す。




『どんな方向に進んだとしても、最前を尽くして君を治すから。今は気持ちが沈んでいるけど、必ず前を向くことができる。』






いつも言ってるふざけた言葉は一つもなく、突然今までに見たことのない藤堂先生の真面目な表情に、逆に緊張する。





『だから今は気分が落ち込んでいても、ここで入院している意味を考えて欲しい。




今は治療に療養。つまり体をゆっくり休ませること。食事を摂ること。院内学級は無理して行くことはないから、今は心も体も休ませること。分かったか?』





言われていることは日頃から言われてることだけど、妙に説得力のある言い方に頷いて返事する。





すると両膝をパンっと弾き立ち上がると、




『ということで、しばらく新しい薬の治療中は特に用がない限り、無駄に部屋からでないことっ!』






「へ?」






思わず拍子抜けした声が出る。





なんて言いましたか?部屋から出られない…?





私の頭の中は、はてなマークがたくさん。きっと目にも。





そんな私をお構いなく置いてカーテンを開け出て行こうとする藤堂先生。






『あ、言い忘れた。
食べて寝て、排便もちゃんとするんだぞ!』





「汚ったな!」




思わず口から溢れる。仮にもこっちは食事中でっす!





『ちゃんと水分摂ってないから、毎日出てないだろ?』





「そ、そうだけど……。」





『俺がいない間、梶田先生に迷惑かけるなよー。』




そ、そんなこと分かってるもん!





『じゃあな、おやすみ』





「お、おやすみなさい。」




そう言い残して部屋を後にした。





も、もう!年頃の女の子に大きな声で汚いことを……。




だけどなんだか不思議なことに、さっきまで憂鬱だったけど今は少し前向きになっている自分に驚いている。





藤堂先生の言葉は、どちらかというと綺麗な方ではないけど、いつも私をうまいこと持っていく。言葉に力がある。そのおかげで目の前の食事にも箸を進めることができそう。





それにしても、明日から梶田先生が担当だし、薬は変わるし。どうなっちゃうんだろう……。





と考えてもしょうがないので、食事を摂ってそのままお腹が満たされ睡魔に負けて眠りについた。





つくづく単純な私……。








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