恋を忘れたバレンタイン
 少々強引な気もするが、今は構ってはいられない。

 それでも、自分を保とうと、何度も帰るという彼女のコートとスーツを脱がせる。口では一生懸命拒否しているが、体は思うように動かないのか、崩れるようにベッドに倒れ込んでしまった。

 あれだけ気丈で完璧な彼女が、知らない奴の家のベッドに寝てしまうなんて、よっぽど熱が高いのだろう。
 俺は、彼女の額に手を当てる。
 熱い…… 

 とにかく冷やさなければと、マンションを飛び出した。


 氷枕を用意し、とにかく水分をとらせる。
 それでも、うわ言のように帰るという彼女が、痛々しく思えてくる。
 こんな状況でも誰かを頼る事さえしない。

 素直に言う事を聞かない彼女に着替えをさせるのは、容易なことじゃない。


「嫌なら、無理にでも着替えさせますけど?」

 そう言えば、怒りながらも彼女は俺のトレーナーに着替えてくれた。


 着替え終わって、布団の中から顔だけ見せている彼女に、俺はほっとした。
 なんとか、このままここで寝てくれるだろう…… 
 ちゃんと休んで欲しい、それだけだ……


 だが、彼女の様子がおかしい…… 

 彼女が体を丸め、ガタガタ震えているのが布団を掛けていても分かる。



「どうしたんですか? 寒いんですか?」

 俺の問いに対して、当然彼女は首を横にふる。

 だけど、顔色が悪く肩が小刻みに震えている。

 どうしたらいい? 

 エアコンの温度を見るふが、部屋は十分に温まっている。


 俺には、迷いなんて無かった。


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