恋を忘れたバレンタイン
 気が付くとカーテンの隙間から、しっかりと日がが漏れていた。


 夕べの事が蘇り、腕を伸ばすが彼女に触れない。

 慌てて飛び起きた。

 部屋の中には、彼女の鞄も、着替えも何も残っていない。
 まるで、夕べの事もすべて夢だったのかと思わせる。


 寝室を飛び出し、リビングと洗面所の戸を荒々しく開けるが、彼女の姿はない。


 玄関へ目をやれば、彼女のハイヒールは消えていた。


 俺は、そのまま壁に寄り掛かり座り込んだ。

 寝るんじゃなかった! 


 ドンッ! 


 俺が、思い切り叩いた壁の音が虚しく響く。



 俺の手には彼女のぬくもりが残っているのに……
 俺の目には、彼女の姿を映したままなのに……
 俺の耳には、彼女の甘い声が囁いているのに……


 彼女は、まるで存在を消すかのように、何一つ後を残さず消えてしまった。


 スマホを手にしたが、彼女の番号など知らない……

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