Chocoholic
Happy Valentine=愛の告白

ショコラティエと恋人になって思ったのは。

世の中には意外とイベント事が多い、その度にスイーツは欠かせない。

夏は比較的売り上げは落ちるそうだけど、寒くなってくると急に稼働率が上がる。
人任せにできない彼は朝から晩まで工房に立つ。

「自分の名前を冠してるお店なんだから、僕が作らないと」

そう言って彼は、店の定休日でもお店に行ってしまう。

初めはそんな彼が誇らしかった。

仕事に真摯で一生懸命、妥協せずに丹精込めてお菓子を作るのは本当に職人のようで素敵だった。

店には小さいけれどカフェコーナーもある。ショーケースから選んだものを、ここで食べることができるのだ。
余り忙しくない時は、私はそこに何時間も居座る事もあった、お店の人は私達の関係を知っているから、黙って紅茶にお湯を注ぎ足してくれたりもする。

だってそうでもしないと、何日も姿を見ないことすらあるのだ。
恋人なのに──。

そして、クリスマスからのバレンタインデーだ。

こんなにそれらのイベントが恨めしいと思ったのは初めてだった。

平日はもちろん逢えない、定休日は水曜日と日曜日の午後だけど、彼は店から離れない。
手ぐらい繋ぎたいのに、キスくらいしたいのに。声を掛けるのすら憚れるくらい、彼は真剣で、殺気立ってすらいる。

そんな姿をガラス越しに見ながら、私はショーケースのチョコレートを選んでいた。

「……けんちゃんのばか」

あんなに好きだったチョコレートすら嫌いになりそうだった。

「店長、呼んできましょうか?」

ショーケースを食い入るように見ていた私に、店員の女の子が声を掛けてくれた。

「あ、ううん、いいの。忙しんでしょ? 彼が作ったチョコ食べてれば幸せだから」

慌てて両手を振りながら言った。
チョコを食べていれば、なんて嘘だ──今はどれを食べてもしょっぱい味しかしない。

でもそこを過ぎまた暖かくなってくると、彼はまたゆとりができて、甘い生活とチョコレートが戻って来た。





そして、今年のバレンタインデーである。

昨年同様、彼はまたバカ真面目にチョコレートと向き合っていて。

この時期ばかりは、恋敵はチョコレートかと思える。

判ってる、ここを過ぎればまた彼は私を愛してくれる。

そう、判っていても──淋しいと言う気持ちは隠しきれない。

バレンタインデーは嫌いだ。

私から彼を奪う。

バレンタインデーは大嫌いだ。

私からチョコレートを贈れる訳でもない、そんなイベントにしたお菓子会社に文句を言いたい。

バレンタインデーは大嫌い。

早く終わればいい、世の中の浮かれた人たちも、早く家に帰ればいい。
早く店を閉められれば、彼も早く帰宅できる。

そうしたら私は笑顔で「お疲れ様」と言えるのに。

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