彼と私のかくれんぼ

どこまで言ったらいいのかわからず、口をつぐんでしまった私のことを、庄司くんは黙って見守り続けてくれている。

そんな庄司くんの優しさに、私はちゃんと本当のことを言おうと決心して、口を開いた。

「声を掛ける前にね、別の女の子たちが庄司くんに話しかけていて、それで何も言えなくなっちゃったの」

「ああ、そう言えば今日、帰りに同期の奴らに会って話しかけられたな。そん時か?」

「多分、そうだと思う」

「ん? それだけで紗英は俺から逃げたのか?」

心底不思議そうな顔で、庄司くんは私を見つめてくる。

普通はそうだよね。そこで逃げるなんて誰も思わないよね。

私は深く深呼吸をして、そして庄司くんに告げた。

「あの子たちが、庄司くんのことを名前で呼んでいたから……」

もうひとつ、『釣り合わない』って言われたことはやっぱり言えなくて、それだけ言って黙ってしまう。

「確かに同期の奴らには、名前で呼ばれてるけど。でも、男女関係なくだぞ?」

庄司くんの言葉を聞いても無言の私を、庄司くんは黙って見つめている。

そして、意を決したように真っ直ぐ私を見つめて、口を開いた。

「実はさ、俺、東京出てきた時からほとんどの奴らに名前で呼ばれてるんだ。それは、自分でそう呼んでくれって頼んだから……。どうしてだと思う?」

「どうしてって……。わかんないよ」

「紗英と同じように、呼ばれたくなかったから」

庄司くんの意外な答えに思わずキョトン、としてしまう。

「どういうこと?」

庄司くんに聞こえるかどうかわからないくらいの声でつぶやくと、独り言のように庄司くんが話し出した。
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