彼と私のかくれんぼ

だけど、私と同じ思考回路だったらしいおふたりの手によって、庄司くんはすっかり拗ねてしまったようで、不機嫌そうな顔を私に向ける。

「ねぇ、庄司くん」

女将さんがテーブルから離れた後、私が声を掛けても、庄司くんは口を尖らせたまま。

「なんだよ。紗英まで俺のことからかって」

「ごめんね。だって悔しかったんだもん」

「何が?」

「……なんか、私ばっかりヤキモキしてる気がして」

「どういうことだよ?」

庄司くんがキョトン、とした顔を私に向ける。

「だっていつも、庄司くんは余裕の表情だから。私はいつも、庄司くんはかっこいいし優しいから、他の女の子に言い寄られてないかなとか心配してて。だからさっきも、同期の子たちと仲のいい姿を見て勘違いしちゃったし……」

恥ずかしかったけど、さっきみたいにこじれてしまうのは嫌だから、私は今の素直な気持ちを率直に告げた。

「何言ってんだよ。ヤキモキしてるのは俺だって一緒だよ」

「え?」

「余裕なんかない。紗英の前でかっこつけて余裕ぶってるだけ。俺だって、紗英が誰か他の男に取られないか心配でたまらないよ」

「大丈夫だよ。私に言い寄る人なんて誰もいないから」

「何言ってんだよ。いつも会社に来る運送会社の人に食事誘われてたって久保田先輩から聞いてるからな」

急に久保田先輩の名前が出てきて、私は目を丸くする。

「紗英は気づいてなくても、そうやって周りが狙ってんの。それを久保田先輩や紗英のお父さんやお兄さんがガードしてくれてるの、絶対わかってないだろ?」

「うん……」

「そういう鈍感なところ、紗英らしくて可愛いけど、離れてるから心配なんだよ」
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