溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
そこからスラリと背の高い男の人が降り立った。
その瞬間、あたりの空気が変わる。品格がありながら、甘くソフトなオーラとでも言おうか。
優花はついじっと見入ってしまった。
濃紺のスーツを華麗に着こなした男が、しなやかな身のこなしで優花のいる方へ歩きだす。サラサラの黒髪が風になびいてあらわになった顔に、優花は目の覚める思いがした。
(……片瀬(かたせ)、くん?)
淡い記憶が一気に蘇り、胸の奥がかすかに疼く。
高校時代に優花が密かに想いを寄せていた、クラスメイトの片瀬圭人(けいと)だったのだ。
優花の地元は関東近郊の地方都市。同級生の何人かは上京しているだろうが、こんなところで偶然にも見かけることがあろうとは。
無意識に足を止め、颯爽と歩くその姿に優花の視線が張りついた。
笑みをたたえた二重瞼の優しい目もとと口もとは高校生の頃のまま。十年の歳月が、大人の魅力を備えさせたか、行き交う女性が次々と立ち止まっては振り返る。
人を惹きつけてやまないのは、何年経っても同じだった。
ほかの女性たち同様、ぼうっと突っ立つ優花。その横を片瀬が通り過ぎようかというときだった。ふと足を止めた彼が優花をまじまじと見つめる。