うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-

「見えてきたぞ。山頂だ」

 山頂といっても名ばかりの小高い丘だが、町が一望できる眺めは駅からここまでずっと歩き続けてきた一行に達成感を与えるものだった。

「おー。見晴らしがいいねぇ」
「お昼食べましょうか」

 菜乃花の様子もいつも通りに戻っていて、先ほど佳乃に問いかけた暗い声もどこかへ消えている。

 時間も丁度よく、開けた場所にレジャーシートを広げて、それぞれが持ってきたお弁当を取り出す。

「へえ、二人はお弁当作ってきたんだ。オンナノコって感じ」

 佳乃と菜乃花が取りだしたお弁当に浮島が感嘆する。料理上手の菜乃花はいろどり鮮やかな食欲のわくお弁当で、おかずを多めに作って皆にわけれるようにしてきたようだ。対する佳乃はというと、自分の食べたいものを詰めてきましたとばかりに肉だらけの茶色いお弁当である。

「佳乃ちゃんはもう少し野菜を入れた方がいいかも……?」
「わかってる……ブロッコリーを入れる隙間も惜しくて、お肉を詰めてしまった……」

 できる女の子とはこうも違うのか、と情けなくなってくる。菜乃花のように気配りもなく、食べたいものを食べる分だけ詰め込んできただけだ。生姜焼きの肉を一枚たりともわけたくない。

「菜乃花ちゃんはカワイイ女子高生なお弁当なのにねぇ……佳乃ちゃんのお弁当を見ていたら、オレ泣きそうになってくる。これじゃ伊達くんも落とせないわけだ」
「もー! 伊達くんの名前出すのやめてください」
「お前、肉食すぎるだろ。魚も食えよ」

 浮島だけでなく、予想外の方向からやってきた剣淵の言葉に佳乃は眉を寄せる。

「じゃあ剣淵は何持ってきたのよ。見せて!」
「ほらよ」

 剣淵の家で見た惨状を思いだす。料理のまったくできない男が何を持ってきたのか。にやにやしながら待っていると、出てきたのはおにぎりだった。
 しかし単なるおにぎりではない。一瞬、剣淵が手にしているのは爆弾なのかと疑ってしまうような、海苔で真っ黒の大きな塊である。

「……大きいね」
「剣淵くんならやってくれると思ってたよ! ねえ、写メ撮っていい? それを両手で持って食べてる動画撮りたーい」

 佳乃は、剣淵の料理について知っていたが、菜乃花や浮島は全く知らない。菜乃花は未知なるものを見ましたとばかりに口を開けて固まっているし、浮島は腹を抱えてひいひい笑っている。

「えーっと。剣淵のことだから、中身はなし、とか?」
「いや。ちゃんと具も詰めてきた」

 両手サイズの特大おにぎりを剣淵が割る。鶏肉がでてきたらどうしようと覚悟しつつ覗くと――

「鮭フレークと、梅干し、こんぶ……」
「姉貴におにぎり作るって話したら色々持ってきたから。とりあえず全部入れてみた」
「それ……全部ごちゃまぜにいれろって意味ではないと思うよ」

 さすがにおにぎりは佳乃だって作れる。佳乃でさえ、こんぶの風味と梅干しの香りが染みこんだ鮭フレークを食べようとは思わない。

「剣淵くん……運動も勉強もばっちりだから何でもできる人だと思っていたけど、だめなものがあったのね……」
「ひー、やめてお腹痛い……笑いすぎて死ぬ……腹筋痛い」

 笑いすぎて悶えている浮島に剣淵は呆れていた。ここまで笑われると思っていなかったのか、顔に苛立ちが浮かんでいた。

「じゃ、浮島さんは何持ってきたんすか」
「爆弾おにぎりのインパクトには敵わないよ。オレ、ただのコンビニ弁当だもん」
「作らなかったんすか?」
「野郎が弁当作ってどうするんだよー。オレ、作るより作ってもらう方が好き」

 そこで浮島の視線が佳乃の弁当へと戻る。

「女の子とお弁当交換して……と思っていたけど、佳乃ちゃんのはパスかな」
「失礼な! こっちだってお断りです!」

 わいわいと盛りあがりながら、一行の昼食が進む。そして皆がお弁当を食べ終えたところで午後の予定についての話し合いとなった。

「ここまで何事もなく、UFOっぽいものも見つからずにきましたね。午後はどうしましょう」
「うーん。そもそもUFOの手がかりって何だろう」

 菜乃花と佳乃の話を聞いて、浮島が考えこむ。

「何かこうUFOセンサー的なものがあればいいのにねぇ。ねえ、そういうのないの? 剣淵くん詳しいんでしょ? ポケットから剣淵印の特殊アイテムとか出してよ」
「んなもんあったら俺一人で見つけてる。あけぼの山をくまなく調べるぐらいしかないかもな」
「じゃあ午後は、行きと違う道に行ってみようか」

 三人が話しているのを聞きながら、佳乃はぼうっと考え事をしていた。というのも昼食前に菜乃花が言っていた呪いについてのことが、頭から離れないのだ。

 佳乃にとってこの呪いは絶対だった。呪いが発動する時は佳乃が嘘をつく時で、それは正しいものだと思ってきたのだが、ここにきて自信がなくなってしまう。

 そして伊達とのつながりを失うようでもあった。佳乃を助けたのは伊達だと信じ、それから好きになったのだ。そのきっかけが別の人だったとしたのなら、佳乃はその人を好きになったのだろうか。
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