短編集
story.10 掠れた声で懇願するは、
「ど、して」
泣き顔を、初めて見た。
その表情はひどく哀しい。だけど瞳に浮かぶ透明な雫は、相反してとても綺麗だと思った。
「わ、たし……」
消え入る心許無い音。小さく震える身体に手を伸ばせば、ぴくりと更に震える。
堪らなくて、ぐっと抱き寄せれば。
反動で堕ちる一粒が勿体無いとさえ感じた。
「この細ェ小せェ身体に、」
背中に添えられた武骨な手が、私の存在を確かめるように上下する。
その緩やかな手付きに大丈夫だ、と言われているようだった。
「お前はどんだけでけェ荷物抱えてる?」
普段は突き放されているかと思う程に低くて冷たい声色が、今は優しく届く。
切れ長の藍色の瞳が、何故だか温かいとさえ思ってしまう。
「お前のその荷物、俺に全部預けろ。」
放たれた強い願いと、私を丸ごと包み込んでしまう大きな存在に。
回した手が、離れないことを未来に夢見た。
**掠れた声で懇願するは、
(どうかこれが、偽りでありませんように。)
thanks by.
空想アリア
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