裏通りランコントル



「あの、どうされました?」



いつの間にか、目の前に品の良さそうな男性が立っていた。
その男性は皺ひとつないスーツを綺麗に着こなしていて、この古びた路地と大きな古民家風の家になんだかミスマッチだった。


あれ?
意識を現実に浮上させてようやく気がついたが、ここはふらりと立ち寄ってみようと思っていた街の図書館ではない。


どこだろう?
わたしはどこに来てしまったのか。



「ここは裏通り3番地ですよ」



……裏通り3番地?
近所にそんなところあったっけ?
どうしてこんなところに迷い込んだのだろう。

そもそも迷ってしまったのだろうか。
普段と変わらず家を出たはずなのに。

ここはわたしの家の近くなのだろうか。
はたまた想像以上に遠いところにきてしまったのか。


ぼけっと考え事をしながら適当に歩くもんじゃないなと、くるくるあたりを見渡しながら考えた。



「おや、貴女は――」



男性はぽつりと呟く。
その先が続くことはなかったけれど、どうやら何かを納得したようでウンウンと軽く頷いた。



「ようこそ、迷い猫さん。」



そうしてわたしのことを「迷い猫」と言い、少し嬉しそうに顔を緩め手を差し出す。

怖くないよ、とまるで気高い野良猫の警戒心をゆうるり解こうとしているような優しい声と手に思わず自身の手を重ねた。



「どうぞ、お上がりください」



重ねた手はどちらともなく冷たかったが、人の手の感触であることには間違いなくて少しほっとした。


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