サイドキック
「――――坊ちゃま!お身体はもう、」
「何ともねぇ」
扉を開けて部屋から出た瞬間。
俺の背中を追うようにそう声を掛けてきたジイに横目の視線も含めてそう返す。
だがしかし止まって話を聞いていられるほど、心境として悠長に構えている訳にもいかなくて。
小走りに俺を追って足を進めてくる老齢の彼を認識したまま、低い声で続けた。
「昨日来たのが誰か、わかるか?」
「…?黒髪の少年が一人で――」
「そうか」
まったく、お前の変り身の早さには脱帽だわ。
あれから何処で男装なんかする時間があったんだよ。
「(―――ユウキ、)」
心の中でその名を呟くだけで温かみが増した気がした。
思わず固く引き結んだ口許をふっと緩める。
自然と上がる口角に隣で俺を見上げるジイが首を傾げていたけれど、関係ねぇな。