サイドキック






落ち着いた色合いのデニムに包まれた脚を懸命に走らせて向かった先は、キャンパス内に設けられた中庭だった。


―――あれからの私は、まだスカートを履く勇気が無くて。










「………、ヒロヤ……」






少しだけ乱れた息が今の私の弱さを表しているようだった。

あの頃にはあって、今の私には無いもの。

その象徴とも取れる男の名を小さく音に乗せれば、数年前の記憶が一気に脳を埋め尽していく。







震える指先で表示される名前をタップして耳に宛がう。

ばくばく鼓動する心臓を直に感じながら、すっと瞳を伏せれば暫く続いていたコール音が止む。









「(男男男男)」


最早何かの宗教なんじゃないかと思えるほど心の中で同じ単語を連呼した私は、閉じていた瞳を開けるのと同時に電話口向こうへと声を放つ。






















「ヒロヤ?――…俺」

"ん、あーユウキか。久々じゃねぇか"










人気のないその場所で私が口にしたのは、女のものとは掛け離れたオトコの声音だった。















< 13 / 362 >

この作品をシェア

pagetop