サイドキック
「居るか?いねー…、よな」
「………恐らくは」
「また脇の小道に居られちゃたまんねーけど」
先ほどの昴さんの行動は、普段ならば目を疑うものだった。
しかしながら私もこの一連の逃亡でそこらの感覚が麻痺していたらしく、「すごいですね、昴さん」と素直に称賛の言葉を落とすだけで。
同車線を走る他の車がほぼ居ないことと、変わり始めの信号が私たちにとっての勝機だった。
免許を取っていない私でも知っているくらいだから、黄色い線で区切られた車線を変更することが禁じられているのはきっと広く知られている。
ここまで昴さんが走っていたのは三車線ある内の真ん中だった。
それを停止線の直前で、剰え黄色信号が終わりそうなときに急変更したのだ。
ほぼ赤信号になりかけの状態で、本来とは違う方向に進まれたら奴らだって手の打ちようが無い。
サツが居たら間違いなく連行されるけど。
「このまま俺んち行くけどいいか?」
「………え?」
「は?」
「え?」
思わず目を瞬かせて視線を送った私の反応って、正当なものじゃないの?
ミラー越しに間抜け―――失礼、驚いたように目を丸くして此方に視線を投げ掛ける昴さんの心理が私には分からない。