サイドキック





「………、あー……」


なんとも歯切れ悪く視線を宙に浮かべているこの男。

なんだこいつ。変なの。


モヤモヤする自らの胸中には見て見ぬ振りで顔を逸らし、「……他の人たちは?」と言葉を口にする。




今まで付き添ってくれてありがとう、とか。

あのときビルに助けに来てくれてありがとう、とか。


言わなきゃならないことは沢山あった筈なのに、まるで肝心の言葉から逃げるようにそんなことばかり言ってしまう自分が恨めしい。

しかも、気になるのは父のことだって分かりきっているのに。

それなのに、「他の人たち」と回りくどい言い方をしてしまう私。


もう本当に、可愛げが無くて嫌になる。







「あー、そうだな。結城社長はひとつ上の階に居るけど」

「……目、覚ましたり……とか、」

「ばーか」

「でっ、」




長い指で小突かれた額が地味に痛い。

思わず眼力込めて奴を睨め付けるものの、「効かねぇって」といつも通り一蹴されて呆気なく終了。


でもこんなやり取りをするのも久々で、気を緩めると上がってしまいそうな口角を引き締めるのが大変だったりして。






「―――ユウキだけだ、目ぇ覚ましてなかったの。もう丸3日だぞ」

「え、」

「心配かけすぎ。ほんと、心臓に悪いわお前」






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