サイドキック
どうってことない触れるだけのキス。
それを長身のヒロヤ目掛けて繰り出したあと、勢いよく顔を俯けた私は小さな声音で言葉を落とす。
「―――恐かった」
ずっとずっと、封印してきた弱音。
私は、私だけは弱音を吐くことは許されないと自分を律してきたから。
でも恐かった、恐かったんだよ。
これ以上この想いが募っていくことに関して、自分ではコントロール出来ないから。
「カラダまで許しちまうと、もしお前に振られたらどうしていいか分からな――」
「振らねぇよ」
「わ、分かんねぇだろそんなの!」
慌てて顔を上げた私は思わず目を見張って奴を見上げた。
「分かる。俺がユウキを振ることは絶対ねぇ」
その表情が、驚くほど優しさに満ちていたから。
先ほどの怒りなんてまるで嘘のように。
此方を覗き込むように視線を落としているヒロヤは、徐に手を伸ばすと私の髪に指先を向かわせる。
「っ、」
「お前はホント、可愛いよな」
「な……っ!」
梳くように指先を遊ばせた男は、その内のひと束を掴むとその口許に持っていく。
そして惜しげもない口付けを私の髪に落とすと、穏やかな笑みで飾ってみせた。
僅かしか隔たれていない至近距離で行われたハチミツよりも甘いそれに、私の心臓はどこどこ早鐘を打ち始める。