見えない世界でみつけたもの
 学校の授業は特に問題なく続いている。

 俺は黒板が見えないので、ノートは取れないので静があとで教えてくれる。

 教科書は点字で書かれているので、目で見る必要はない。

 これを読めるようになるまでは、並大抵の苦労ではなかった。指で追っても意味不明な点の羅列に、頭が混乱して発狂しそうにもなった。それでも、理解して読めるようになったときは嬉しかった。

 手が俺の目になった――そんな感じだったから。

 そしてもう一つの変化は、耳がよく聞こえるようになった事。人間の身体は不思議なもので、失ったものがあると他の器官がそれを補う。目が見えなくなって、俺は音の判断力が少しだけ上がったようだ。だから感じる事が出来るものがある。


 ――声は人の思いをのせて聞こえるもの。


 それが少し理解出来るようになっていた……。

 
 授業も終わり――放課後。

 今日も一日、何事もなく終わった。静は俺と一緒に帰っている。

 俺の隣を歩く静は、俺の手を握っている。帰りだけは必ず、俺の手を握る。

 家に帰り着くまで……。

 それは”あの”事故に関係あるのだろう。あの事故は俺達が帰っている時に起きたのだから――。

 あの日、いつもの帰り道でそれは起きた。俺達に突っ込んでくる一台の車。その暴走する車のスピードは、歩いている人間では交わせないものだた。俺は咄嗟に静を庇って車と接触して、そのまま気を失った。

 次に気付いた時、俺は病院のベットで寝ていた。頭には包帯、そして目にも包帯があった。

 そこで言われた一言――それで俺の人生は変わった。

 光のない世界で生きる事。それは、その時の俺には想像が付かなかった。それよりも、俺の隣で泣いている声だけが聞こえる静が気掛かりだった。静はずっと「ごめんなさい」と俺に向かって繰り返していたからだ。

 それは、自分を責めている言葉。自分のせいで俺の目が見えなくなった、と思っているのだろう。

 俺は、静を助けたくて、助けたんだ。だから自分を責めないで欲しい。そう願っても静は一向に泣き止まなかった。

 そして今でも、静は自分を責めているだろう。俺にはそう感じる――あの日からずっと……。

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