諸々ファンタジー5作品
必ず奪還しますから!
妖怪。怪異。アヤカシと言われる人成らざる存在。
区別していたのはいつの時代なのか。適応なのか人が受け入れたのか、現代にもソレを受け継ぐ子孫がいる。
人と変わらぬ外見で人間社会に混じり、尚も引き継がれる習性。
役目を背負って、其れは夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
私、鳥生 告美(とりゅう つぐみ)も其の1人。
見た夢は・・
私は暗闇に立ちつくし、その慣れた環境に疑問も無く、課せられた使命を探す。
通常にみる夢ではなく、私の中に存在する引き継がれた能力。
日常で私の背にはない黒煙の交じる炎の翼。闇と同化しそうなそれを徐々に広げ、微かな光源に照らし出される映像。
今回は自分が視る事を望んだ“彼”の未来。
それを視て、私の中に生じたはずの感情が消えるなんて。
ロウソクの炎が消える時のような瞬間で、あっけなく記憶から奪い去られてしまった。
暗黒の闇も真っ白に塗り替えられ、そこに在る者に気付く。
何もない場所に腰掛け、片膝を立てて私を見下ろすような位置にいる男。
「ハジメマシテ。お邪魔させてもらっているよ。」
私の予知夢を奪った張本人。
「何者かは問わない。今すぐに夢を返せ。」
この者の目的は分からないけれど、奪われた夢を取り返さなければいけない。
だってそれは、“彼”の未来だから。
「へぇ。お前は仲間だったんだ。」
何を今更。私の翼を見ていないのか?
予知夢の闇が取り去られた今となっては、あの翼も見えないけれど。
いつから居たんだ。こいつが奪ったのではない?いや、仲間だと言うなら。
冷静さなどなく、状況の把握で頭はフル回転。
「返せ、かぁ~。ふむ。やった事が無いんだけど、試してみる価値はあるかな。くくく。だって、俺好みの同類なんて喰うっきゃないっしょ。」
腹の内も見えないような笑い方で、私の様子を常に観察するような視線は逸れることが無い。
彼は片膝を下ろし、口は何かを噛む様な仕草。
風船ガムを膨らます様にして口から出したのはピン球の大きさで、白に灰色のマーブリング。
口から離れて空中を漂う球体。
それは私が奪われた夢なのだろうか。
彼自身、それを指で摘まんで興味深そうに見つめる。
「これ、本当に欲しいの?」
私に視線も向けず、力を入れて球体を歪ませていく。
強度も分からない未知の物体に、限界を感じて失う事への恐怖が生じた。
「止めて!」
咄嗟に叫んで距離を縮める私に、彼は満足そうな笑みで球体を空中に離す。
その瞬間、自分の体に違和感。
足を止め、両手を胸元に近づけて思考停止。
そんな私を馬鹿にしたような嘲笑に、恐る恐る目を向けた。
「現実の心配をした方が良くね?」
コイツ、コイツぅ~~!?寝ている私の身体に直接、触れているだと?そんな馬鹿な!
夢から引き上げられるようにして、目を覚ます。
信じたくないけれど、自分の上に被さる男は夢と同じ人物だった。
目を覚ました私に、両手で胸を覆ったまま悪びれも無い笑顔。
「俺、寝る時にノーブラの女とか初めてだ。」
最低最悪!
手は拳で、未だかつてない程の力を振り絞ったパンチ。
体勢を崩した奴の傍らには、あの球体が浮遊する。
手を伸ばし、それに触れようとした瞬間に留めるような力。
殴られた顔を押さえながら涙目で、空いた方の手が私の手首を掴んでいた。
「痛いなぁ。嫌いじゃないよ、気の強い女の子って。調教し甲斐があるからね。」
背筋を通る寒気。彼の視線は鋭く、感情も読み取れないような表情。
私の体は震える。力も入らず、言葉を失った。
もう駄目だ。現実で力のない私は、このまま彼の思い通りにされてしまう。
そんな私から視線を逸らし、彼は捉えていた手を解放した。
「夜明けか。」
彼の向ける視線の先にあるのは窓。
確かに光が徐々に広がっている。
「ふっ。安心しなよ。そろそろ強制的に引き戻される時間だ。」
流し目で見下ろす彼の姿が霞んで、重みも軽減していく。
そして気配まで完全に消え、安堵したけれど、自分の体に重みとは違った力が圧し掛かったように感じる。
疲れ。それも精神的な疲労。
深く息を吐き出し、視線を漂わせて探した。
視ることを望んだ“彼”の未来。奪われた夢。それが詰まっていたのかも曖昧で奇妙な球体。
混濁する思考は落ちるように、通常の夢へと誘われて。
いつもの起床時間には目覚ましが鳴り響き、気だるさを感じながら手を伸ばした。
アラーム音を止めて身を起こし、ベッドの上で放心状態になる。
目覚めの悪いのは昔から。だけど夢見が悪いと言うか、吉凶を萌すのを邪魔されたなど今も信じられない。
確かに視たはずだ。黒煙の交じる炎の翼が照らし出した吉凶。
感情が生じた。それも共に一瞬で奪われ、記憶から消えるなんて。
彼は私を仲間だと知らなかったみたいだし、私の翼も見ていないのだろう。
『本当に欲しいの?』
奪っておきながら、欲しいかを問うなんて筋違いも良いところだ。
元々、私の物なのに。
私は鵺(ぬえ)。不吉を告げると言われている鳥のアヤカシ。そう、前途に不吉な事があるなら。
告げなければならない。
私の憧れ。想い人。この胸の内を告げる事も願っていないような片想い。
そうよ、この胸の……薄いTシャツでノーブラを触りやがったな、あの野郎。
夢に入って邪魔しただけじゃなく、現実の体にまで触れるなんて、夢魔と呼ばれる類だろう。
あの様子だと、また来るだろうな。それまで夢が無事だと良いけれど。
奴が来るのを待つまでもなかった。
学校の正門を通り、混雑の中心に見つけたけれど……姿の似た別人なのだろうか。
そいつは目の前で、能天気な笑顔を周りに振りまく。
あんなに冷めた視線で、感情のない……いや、悪意はあったな。
その笑みとは似つかない屈託のない笑顔。
足を止め、茫然と見つめる私に気付いたのかな?
笑顔も消えて、表情は見覚えのあるものに変化していく。
冷たく感じるような細めた目が私を捕らえて、口元だけの笑みを見せる。それも一瞬の事。
流し目で通り過ぎるように、ゆっくりと顔の方向を変えて、私を相手にはしなかった。
凍えるような寒気が背筋を通る。
悪意?違う。殺意でもないけれど、存在を否定されたようで怖い。
少しの震えを感じ、手に力を入れて握り締める。
落としそうになった視線を上げて、彼の後姿を睨みつけた。
するとその近くに、あの謎の球体が浮遊しているのが目に入る。
誰もそれを気に留めてはいない。
他の人には見えないのだろうか。やはり、私の夢に侵入したのと同一人物。
裏表が激しいのかな。
考えていても夢は戻ってこない。
予知夢を取り戻すため、足を踏み出そうとした私に被さる重み。
「告美、おはよう。」
無表情ながら、見慣れた私には少しご機嫌な天山 光莉(あまやま ひかり)。
「おはよう、光莉。」
重みに耐えながら返事を返すと、滅多に見られない最高の微笑み。
そんな漂う色香に惑う男子生徒が多数なのは、いつもの事。
「そうだ、光莉。あれって見える?」
アヤカシなら見えるのか知りたくて、奴の頭上を浮遊する物体を指さして尋ねた。
光莉も私とは違うけれど、アヤカシ。
私の問いに、光莉は視線を移動させて指差した方向に顔を向けて不機嫌に答える。
「あの男がどしたん?ムカつくなら噛むじょ。」
何故、機嫌を損ねたのか分からないけれど、見えていないのだけは分かった。
「ふ。噛んじゃダメよ。」
私が見えるのは、謎の球体の中身が予知夢ではないにしても、私に関係する物が入っているから。
彼自身は見えているのかな。
自分の周りを浮遊する球体を気にすることなく、別人のように振る舞う彼に違和感がする。
吉凶の萌しを失った私が見た夢は……
予知夢を奪った彼の本質、真実の姿だったのかもしれない…………
区別していたのはいつの時代なのか。適応なのか人が受け入れたのか、現代にもソレを受け継ぐ子孫がいる。
人と変わらぬ外見で人間社会に混じり、尚も引き継がれる習性。
役目を背負って、其れは夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
私、鳥生 告美(とりゅう つぐみ)も其の1人。
見た夢は・・
私は暗闇に立ちつくし、その慣れた環境に疑問も無く、課せられた使命を探す。
通常にみる夢ではなく、私の中に存在する引き継がれた能力。
日常で私の背にはない黒煙の交じる炎の翼。闇と同化しそうなそれを徐々に広げ、微かな光源に照らし出される映像。
今回は自分が視る事を望んだ“彼”の未来。
それを視て、私の中に生じたはずの感情が消えるなんて。
ロウソクの炎が消える時のような瞬間で、あっけなく記憶から奪い去られてしまった。
暗黒の闇も真っ白に塗り替えられ、そこに在る者に気付く。
何もない場所に腰掛け、片膝を立てて私を見下ろすような位置にいる男。
「ハジメマシテ。お邪魔させてもらっているよ。」
私の予知夢を奪った張本人。
「何者かは問わない。今すぐに夢を返せ。」
この者の目的は分からないけれど、奪われた夢を取り返さなければいけない。
だってそれは、“彼”の未来だから。
「へぇ。お前は仲間だったんだ。」
何を今更。私の翼を見ていないのか?
予知夢の闇が取り去られた今となっては、あの翼も見えないけれど。
いつから居たんだ。こいつが奪ったのではない?いや、仲間だと言うなら。
冷静さなどなく、状況の把握で頭はフル回転。
「返せ、かぁ~。ふむ。やった事が無いんだけど、試してみる価値はあるかな。くくく。だって、俺好みの同類なんて喰うっきゃないっしょ。」
腹の内も見えないような笑い方で、私の様子を常に観察するような視線は逸れることが無い。
彼は片膝を下ろし、口は何かを噛む様な仕草。
風船ガムを膨らます様にして口から出したのはピン球の大きさで、白に灰色のマーブリング。
口から離れて空中を漂う球体。
それは私が奪われた夢なのだろうか。
彼自身、それを指で摘まんで興味深そうに見つめる。
「これ、本当に欲しいの?」
私に視線も向けず、力を入れて球体を歪ませていく。
強度も分からない未知の物体に、限界を感じて失う事への恐怖が生じた。
「止めて!」
咄嗟に叫んで距離を縮める私に、彼は満足そうな笑みで球体を空中に離す。
その瞬間、自分の体に違和感。
足を止め、両手を胸元に近づけて思考停止。
そんな私を馬鹿にしたような嘲笑に、恐る恐る目を向けた。
「現実の心配をした方が良くね?」
コイツ、コイツぅ~~!?寝ている私の身体に直接、触れているだと?そんな馬鹿な!
夢から引き上げられるようにして、目を覚ます。
信じたくないけれど、自分の上に被さる男は夢と同じ人物だった。
目を覚ました私に、両手で胸を覆ったまま悪びれも無い笑顔。
「俺、寝る時にノーブラの女とか初めてだ。」
最低最悪!
手は拳で、未だかつてない程の力を振り絞ったパンチ。
体勢を崩した奴の傍らには、あの球体が浮遊する。
手を伸ばし、それに触れようとした瞬間に留めるような力。
殴られた顔を押さえながら涙目で、空いた方の手が私の手首を掴んでいた。
「痛いなぁ。嫌いじゃないよ、気の強い女の子って。調教し甲斐があるからね。」
背筋を通る寒気。彼の視線は鋭く、感情も読み取れないような表情。
私の体は震える。力も入らず、言葉を失った。
もう駄目だ。現実で力のない私は、このまま彼の思い通りにされてしまう。
そんな私から視線を逸らし、彼は捉えていた手を解放した。
「夜明けか。」
彼の向ける視線の先にあるのは窓。
確かに光が徐々に広がっている。
「ふっ。安心しなよ。そろそろ強制的に引き戻される時間だ。」
流し目で見下ろす彼の姿が霞んで、重みも軽減していく。
そして気配まで完全に消え、安堵したけれど、自分の体に重みとは違った力が圧し掛かったように感じる。
疲れ。それも精神的な疲労。
深く息を吐き出し、視線を漂わせて探した。
視ることを望んだ“彼”の未来。奪われた夢。それが詰まっていたのかも曖昧で奇妙な球体。
混濁する思考は落ちるように、通常の夢へと誘われて。
いつもの起床時間には目覚ましが鳴り響き、気だるさを感じながら手を伸ばした。
アラーム音を止めて身を起こし、ベッドの上で放心状態になる。
目覚めの悪いのは昔から。だけど夢見が悪いと言うか、吉凶を萌すのを邪魔されたなど今も信じられない。
確かに視たはずだ。黒煙の交じる炎の翼が照らし出した吉凶。
感情が生じた。それも共に一瞬で奪われ、記憶から消えるなんて。
彼は私を仲間だと知らなかったみたいだし、私の翼も見ていないのだろう。
『本当に欲しいの?』
奪っておきながら、欲しいかを問うなんて筋違いも良いところだ。
元々、私の物なのに。
私は鵺(ぬえ)。不吉を告げると言われている鳥のアヤカシ。そう、前途に不吉な事があるなら。
告げなければならない。
私の憧れ。想い人。この胸の内を告げる事も願っていないような片想い。
そうよ、この胸の……薄いTシャツでノーブラを触りやがったな、あの野郎。
夢に入って邪魔しただけじゃなく、現実の体にまで触れるなんて、夢魔と呼ばれる類だろう。
あの様子だと、また来るだろうな。それまで夢が無事だと良いけれど。
奴が来るのを待つまでもなかった。
学校の正門を通り、混雑の中心に見つけたけれど……姿の似た別人なのだろうか。
そいつは目の前で、能天気な笑顔を周りに振りまく。
あんなに冷めた視線で、感情のない……いや、悪意はあったな。
その笑みとは似つかない屈託のない笑顔。
足を止め、茫然と見つめる私に気付いたのかな?
笑顔も消えて、表情は見覚えのあるものに変化していく。
冷たく感じるような細めた目が私を捕らえて、口元だけの笑みを見せる。それも一瞬の事。
流し目で通り過ぎるように、ゆっくりと顔の方向を変えて、私を相手にはしなかった。
凍えるような寒気が背筋を通る。
悪意?違う。殺意でもないけれど、存在を否定されたようで怖い。
少しの震えを感じ、手に力を入れて握り締める。
落としそうになった視線を上げて、彼の後姿を睨みつけた。
するとその近くに、あの謎の球体が浮遊しているのが目に入る。
誰もそれを気に留めてはいない。
他の人には見えないのだろうか。やはり、私の夢に侵入したのと同一人物。
裏表が激しいのかな。
考えていても夢は戻ってこない。
予知夢を取り戻すため、足を踏み出そうとした私に被さる重み。
「告美、おはよう。」
無表情ながら、見慣れた私には少しご機嫌な天山 光莉(あまやま ひかり)。
「おはよう、光莉。」
重みに耐えながら返事を返すと、滅多に見られない最高の微笑み。
そんな漂う色香に惑う男子生徒が多数なのは、いつもの事。
「そうだ、光莉。あれって見える?」
アヤカシなら見えるのか知りたくて、奴の頭上を浮遊する物体を指さして尋ねた。
光莉も私とは違うけれど、アヤカシ。
私の問いに、光莉は視線を移動させて指差した方向に顔を向けて不機嫌に答える。
「あの男がどしたん?ムカつくなら噛むじょ。」
何故、機嫌を損ねたのか分からないけれど、見えていないのだけは分かった。
「ふ。噛んじゃダメよ。」
私が見えるのは、謎の球体の中身が予知夢ではないにしても、私に関係する物が入っているから。
彼自身は見えているのかな。
自分の周りを浮遊する球体を気にすることなく、別人のように振る舞う彼に違和感がする。
吉凶の萌しを失った私が見た夢は……
予知夢を奪った彼の本質、真実の姿だったのかもしれない…………