諸々ファンタジー5作品

予言者

ワタシは知っている。
神のように君臨する大国タイドフからの警告。その意味を理解する者。滅びの対象である民に告げ、今までの世界観を覆す。
彼こそ、本当の預言者。彼は気づかない。自分の存在の大きさに……自分の位置を揺らす真実を知る者。
その者が、預言者のように見えるから……二人の…………



『成り損ねたモノ』



道なき道を歩く。砂漠ではないが、それに近い、周りの風景に変化のない所。

二人は言葉を発することなく、歩むべき道を確認することなく進む。

目指すのは、隣国との交友が絶たれたような辺境の地。小さな中立国ルシャン……その中立の意味するところを理解する。

安全の保障された場所などではない。



国城に沿った、小さな城下町。城を見上げるような位置にある宿を見つけ、停泊する。

そこで、言葉を交わす二人。

「ロスト、敵の気配はない。しかし……きっと、お前の命を狙ってくるだろう。」

セイラッドは、荷物を下ろしながら、窓に用心深く近づき小さな声で言った。

ロストは、ベッドに座り天井を見つめる。

「セイラッド、君は欲しいものを手に入れた後、……」

言葉を閉ざし、視線を窓にいたセイラッドに移す。

「ん?くすすっ。手に入るさ、もうすぐね。君が、君である限り。そうだね、その後か……俺も自分を計りかねている。今の内に、俺を殺すか?」

余裕のような笑みに、ロストは笑う。

「ふっ。くくっ……楽しいね。」

ロストの意外な表情に、セイラッドは満足したように言う。

「お前になら、殺されても良い。」

「俺もだ。」



二人は、休息の為に眠る。

警戒心もなく、意識が落ちるように……少しの安定した休息だと理解して。





ワタシに……近くも遠い想い。愛玩の舞姫に会う時は短く、舞姫の場所まで……長い。

ロストを待ち受ける結末は…………





二人は目覚め、身支度を整える。

セイラッドは窓に近づき、そっと外の様子をうかがう。その行動を一瞬で終え、ロストに目を向けた。

ロストはカバンから、乾燥した果物を出し口に入れる。視線の合ったセイラッドにも与え、カバンを担いだ。

「ロスト、行くのか?」

セイラッドの問いに、ロストは背を向けて答える。

「時は、待ってくれない。俺の求めているのは、ブレシニーの安全の保障が続くこと。一刻を争うなら、俺は行く。例え、命を削ってでも。」

まだ死ねない。そんな覚悟の視線を向けてドアを開ける。

その覚悟に、黙ってセイラッドは付いて行く。

甘い果実の匂いと味が広がる口上……結末とは似つかないだろうか……



セイラッドはロストの後を歩き、腰にある剣に手を置いて警戒を続ける。

ロストは、後ろを気にすることなく……ただ、城の入り口に立つ。

「舞姫の無事を確かめに来た。中立国ルシャンのチャイエ王に接見したい。」

大きな門は開かれ、二人は城に入る。武器は持っているとしても、国を覆すことも出来ない小さな二人。

城にいた者達は、どう見ただろうか?

きっと、大国に滅ぼされた小さな国を思い見ただろう。燃え尽きて、屈辱も残らない……名も忘れ去られる時が来る。そんな生き残り、最後の者達。

迎え入れ、中立であって中立ではない反応。大国の味方でも敵でもない……滅びた小国の敵でも、味方でもないのだ。

城自体の規模は小さいが、十分の広さを二人は歩く。

大勢の視線を浴びて、王の許に一歩一歩、確実に近づいて行く。



旅の終わりを匂わせるような……静けさに、ロストが何を感じていたのか……ワタシは知らない。

知らなくていい。苦しくなるから…………





接見の間に通され、二人は怯むことなく王の前に立った。

「なるほど、ロスト……最後の者。勇敢に、先を見つめる者よ。その同じ目で、見るが良い。愛玩の舞姫を!」

二人の前に現れた女性。正装に身を包み、近づいてくる。

ロストは、ただ……見つめていた。セイラッドは、ロストの様子を見ている。



「……ミラニー。」

ロストは、小さな声で彼女の名を呼んだ。



……そう、そこにいたのはミャーダの王妃ミラニーだった。

ロストは、無言で宙を見つめ涙を零す。無意識に溢れ、流す涙。

無情にも、ルシャンの王は告げる。

「さあ、預かっていた貴重な者は返した。盟約を果たした我と、これ以上の係わりは必要だろうか?去れ。」



『恨むなよ。約束は守るが、俺は手段を択ばない。俺の守りたい者の為なら。』

『許して欲しいとは思わない。願いがある……“愛玩の”舞姫を……護ってくれ。』

『ロスト。“君の舞姫”は、一番……安全な所にいるよ。君は行くべきだ。』

カイディールの言葉が、ロストの頭の中を巡る。

『憎んでもいい。』

ブラウンドの発した言葉も……



ロストは、ルシャンの王に問う。

「あなたは、知っていたのですか?」

「すべての結末に近いのは俺だろうね。行きなさい……待っている者の元へ。」

優しい眼差しに、ロストの確信は強まっていくようだった。

「あなたの未来は、変わらない……中立であるが故……どこにも属さず、どこにも干渉されることなく。」

預言の言葉。



そんな言葉を覆すような笑みで、3人を送り出す。

大きな扉が閉まると同時。

「中立であるが故、役目があるのだよ。君の為に……そして、俺の為に…………」




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