諸々ファンタジー5作品
『恋を失い』
久利 未來(くり みらい)
クリスマスの夕暮れ。
ずっと幼い頃から共に過ごし、その日も同じだと思った。特別な想いを告げても、変わらないのだと信じていたのが崩れる。
予定を聞いた私に、幼馴染は答えた。『夕方、学校で待ち合わせの約束がある』と。
嫌な予感がした。胸騒ぎに、じっとしていることが出来ず、向かった学校。
私の姿を見つけ、幼馴染は微笑んだ。
「未來、これを受け取って欲しい。ごめんね、ありがとう。」
手に渡された物は、ラッピングもされていない。彼の中で、私の幼さを物語るような、雪だるまのヌイグルミ。
胸に抱きしめ、私は笑顔を向けた。いつもと同じように笑えただろうか。
彼は背を向け、私ではない女の子の方に向かう。
言葉も出ずに後姿を見つめ、思考と同じ、白い雪が視界を塞いだ。地面に落ちては、溶けて消えていく。涙を零し、霞んだ視界。
遠くだから分からない?私が泣いているのに、振り返ったあなたは笑顔で手を振って、また背を向けた。彼女と並んで歩いて行く後姿。
『ただの幼馴染。小さな時から一緒に居た友達。』私は恋を失った。
せめて想いを伝える事が出来ていれば、闇に呑まれることもなかっただろうか。
手から落ちたヌイグルミを拾うこともせず、涙も拭わずに、その場を去った。
何も見ていない。“あなた”と目が合った?知らないわ。無音を生み出した?心は穏やかではない。思考はグチャグチャで、言葉が出なかった。
私を捕らえたのは、あなた……
部屋に閉じこもり、暗闇に身を小さくして丸くなった。涙が溢れては零れる。
どれほど泣いたのか、泣き疲れて眠っていた。母だろうか、体には毛布が掛かって、部屋は暖房が利いている。
きっと、私の想いは筒抜けだったのだろう。自分の幼さが恥ずかしくて情けなくて、言葉にならないほど胸が痛む。苦しみと後悔が奏でる心音。
日は過ぎるのに、自分の時間は止まったまま。
周りは色めき、雑音と化す。
入ってくる情報は、自分の失恋に闇色を加えていった。落ちていく感覚。
幼馴染が隣に居ない。私の隣にいた相月 晴(あいづき はる)は、木口 一香(きくち いちか)と並んで歩く。
私は視線を逸らし、周りの気遣いに胸を痛めた。募るのは羞恥心。
気分が悪くなり、保健室へと向かった。足取りは重いのに、歩行の感覚が曖昧で、道のりは遠い。
保健室の扉に手をかけると、中から音楽が聞こえた。
そっと開いて、誘われるように入る。
高音のバイオリンが、身体に響く。パソコンには、癒される草原の画像。揺れる草や花。その音が、バイオリンと曲を奏でるように重なる。
見つけたのは、音のある世界。
それを“あなた”が私に提供したのに、“あなた”は私に無音を求める。
私の逃げ場で、“あなた”は私を追い詰める。無音の世界に囚われ、無意識で生み出した私を捕らえても、得られるはずはない。だから、解放して欲しい。
『君は、俺のヒロインだよ。』
私は気づかずに、心が無音を奏でる……
久利 未來(くり みらい)
クリスマスの夕暮れ。
ずっと幼い頃から共に過ごし、その日も同じだと思った。特別な想いを告げても、変わらないのだと信じていたのが崩れる。
予定を聞いた私に、幼馴染は答えた。『夕方、学校で待ち合わせの約束がある』と。
嫌な予感がした。胸騒ぎに、じっとしていることが出来ず、向かった学校。
私の姿を見つけ、幼馴染は微笑んだ。
「未來、これを受け取って欲しい。ごめんね、ありがとう。」
手に渡された物は、ラッピングもされていない。彼の中で、私の幼さを物語るような、雪だるまのヌイグルミ。
胸に抱きしめ、私は笑顔を向けた。いつもと同じように笑えただろうか。
彼は背を向け、私ではない女の子の方に向かう。
言葉も出ずに後姿を見つめ、思考と同じ、白い雪が視界を塞いだ。地面に落ちては、溶けて消えていく。涙を零し、霞んだ視界。
遠くだから分からない?私が泣いているのに、振り返ったあなたは笑顔で手を振って、また背を向けた。彼女と並んで歩いて行く後姿。
『ただの幼馴染。小さな時から一緒に居た友達。』私は恋を失った。
せめて想いを伝える事が出来ていれば、闇に呑まれることもなかっただろうか。
手から落ちたヌイグルミを拾うこともせず、涙も拭わずに、その場を去った。
何も見ていない。“あなた”と目が合った?知らないわ。無音を生み出した?心は穏やかではない。思考はグチャグチャで、言葉が出なかった。
私を捕らえたのは、あなた……
部屋に閉じこもり、暗闇に身を小さくして丸くなった。涙が溢れては零れる。
どれほど泣いたのか、泣き疲れて眠っていた。母だろうか、体には毛布が掛かって、部屋は暖房が利いている。
きっと、私の想いは筒抜けだったのだろう。自分の幼さが恥ずかしくて情けなくて、言葉にならないほど胸が痛む。苦しみと後悔が奏でる心音。
日は過ぎるのに、自分の時間は止まったまま。
周りは色めき、雑音と化す。
入ってくる情報は、自分の失恋に闇色を加えていった。落ちていく感覚。
幼馴染が隣に居ない。私の隣にいた相月 晴(あいづき はる)は、木口 一香(きくち いちか)と並んで歩く。
私は視線を逸らし、周りの気遣いに胸を痛めた。募るのは羞恥心。
気分が悪くなり、保健室へと向かった。足取りは重いのに、歩行の感覚が曖昧で、道のりは遠い。
保健室の扉に手をかけると、中から音楽が聞こえた。
そっと開いて、誘われるように入る。
高音のバイオリンが、身体に響く。パソコンには、癒される草原の画像。揺れる草や花。その音が、バイオリンと曲を奏でるように重なる。
見つけたのは、音のある世界。
それを“あなた”が私に提供したのに、“あなた”は私に無音を求める。
私の逃げ場で、“あなた”は私を追い詰める。無音の世界に囚われ、無意識で生み出した私を捕らえても、得られるはずはない。だから、解放して欲しい。
『君は、俺のヒロインだよ。』
私は気づかずに、心が無音を奏でる……