諸々ファンタジー5作品

シミュレーション

『囚われ』



熱は下がらず、父に運ばれて帰宅。



夜には、幾分か熱が下がったものの、眠れない。

水分補給に起き上がり、カーテンを開けた。

月明かりを頼りに、PCの電源を入れ、毛布に包まって椅子に座る。



サイトにログインすると、いつもの画像選択画面ではなく、光と闇に立つアバターが現れた。

バグだろうか。アバターの後姿と無音。

光の輝きが散りながら、アバターの足元の闇へと落ちる。すると、更に細かく光が散った。

アバターの首の辺りから、次々と落ちる光。そして、高音のバイオリンが切なく流れる。



矢印を押していないのに、闇へと沈んでいくアバター。

闇の中に沈んだアバターが、ゆっくり回転して、身体を丸めた。

正面を向いたアバターに驚く。

目から涙を零し、頬を伝って、闇に光を散らす。そして、また無音……。



闇に落ち、いつもより速いスピードの摩擦音。

どんどん漆黒の闇に染まる画面に、輝きを増す涙。



画面の角度が変わって、上部を映しだす。

螺旋状に、闇に光を刻んで、幻想的な世界。



…………



意識が途絶え、夢心地。

気づけば布団の中で、朝に目覚めた。



PC画面は、画像を映したまま。

丸くなって、横になったアバターは闇の底に着いたかのようだった。まるで、アバターが死んでいるような暗黒の世界。

何故か手が震え、エンターキーを押して反応を見守る。

アバターは身を起こして、座った状態で周りを見渡した。手さぐりで立ち上がり、上部を見つめるが、視覚に変化はない。

一筋の光も届かない暗闇。そこに音声が聴こえた。

「俺のヒロインになって欲しい。」

今までにない事。だって、これは“独創サイト”一人の世界……

カーソルが点滅し、文字の入力を待っている。私は戸惑いながら、キーを打っていく。

gomeご め n入力の途中、PCは光を放つ。闇を払い除けるほどの、強力な眩い光。

暗闇に慣れた私の目には、痛い程。両目を押さえ、何が起きたのか、全く理解できなかった。

PCは、壊れてしまったのだろうか?現実の事で、頭が一杯だった。どうして壊れたのか、どのように親に説明しようか、混乱の動揺。

光自体が抑えられたのもあるのか、目は慣れて、現状の確認の為、私は画面に視線を移す。

絶句……



アバターは光の中、目を閉じて動かない。正確には、動けない束縛状態。

黒い紐状の何かに縛られ、磔はりつけ……刑を受けているような、その姿こそ闇に相応しいのではないだろうか。

なのに、光の注ぐ中央で、彼女は私の選択の結果……囚われの身。

吐き気の催す光景に、思わず、PCの電源を切った。震えて、思考停止。



親は、青ざめた私に、学校を休むように勧めた。PCから逃げるように、身支度を整えて部屋から出る。

食欲なく、重い足取りで、学校へと向かった。カバンには、雪だるまのヌイグルミが入ったまま。

これは、関係するのだろうか。ヌイグルミの返却で、私とアバターへの接触。偶然なのだろうか。あのバグは、私だけなのかな。



保健室へと足を向ける。

朝の早い時間、その部屋は鍵の掛かった状態で、先生が来るのを待つしかなかった。

ドアに背を預け、廊下にしゃがみ込むと、冷たい風が通る。体調が悪いのが、悪化するだろうか。

目を上げると、外の木々は、桜が散って葉が青々と茂っている。光の漏れる木は、風で緩やかに揺れた。

耳には、小さな音……高音のバイオリン。PCのスピーカーより鮮明で、遠くから聴こえるのに、心に響く。

立ち上がり、耳を澄ました。

確かに、聞こえる。保健室の中じゃない。

闇雲に走り、ほんの少し近づいた音は途切れ、学校のチャイムが道を閉ざす。立ち止まり、息を切らして汗を拭った。

居るんだ、この学校に……あの、サイトの関係者が。



私のアバターを救わないといけない。

『俺のヒロイン』?理由は分からない。私にヌイグルミを返し、その中にあった何かを持っている。

きっと、彼の望みと引き換えに手に入れることが出来るはず。

私はバイオリンの音に耳を傾け、探して、見つけ出す。



アバターは私。

彼に囚われた私は……逃げ道を探す…………




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