諸々ファンタジー5作品




それは、急な転校生が運んだウワサ……

自分の家系に臨む結末を、周りは知っていたんだ。

俺の結末……彼女が、俺のすべてを奪う。最後の烏。

手を出すなんて、考えもしなかった。

その行為さえ理解せずに、ただ望んだのは愛情…………



烏よ、山の古巣に何故、戻る?

それは、本当に仇なのか?



ニシの空、沈む太陽……それは明日への軌跡。

ヒガシから上る太陽……それは、希望のはずなんだ。

俺は、ずっと……そう信じてきた。



夕暮れに鳴く烏。

この村は烏を崇める神社がある。

祀り、怒りを鎮めるのだと……

幼心に疑問を抱いたが、大人は口を重く閉ざし、答えてはくれなかった。



東 白鷺(あずま しらぎ)

俺の人生の終わりを告げるカラスを知ったのは、高校2年……

西嶌 烏立(にししま うりゅう)が転校してきた日。

ざわめく教室に、集中する視線。

彼女と俺を交互に見つめるクラスの反応に、俺は、ただ戸惑うばかりだった。

耳に入った言葉が、記憶に刻まれる。


『烏……仇と御守が災いを招く……』


自己紹介は小さな声。

教室は静まる。その声を聞き取ろうと。

しわがれてはいないが、独特な声色。寒気を感じるような冷たさを印象に残す。

彼女の制服は、烏のように真っ黒。襟の部分に、目を引く黄色の線。

リボンもなく飾り気のない、この学校の指定ではない制服が、彼女の存在を一層際立たせた。



HRが終わり、担任の先生は教室から、逃げるように出て行った。

増えた席……彼女の居場所に近づく者はいない。

ただ遠巻きに、小さな会話が小さな集団で、同じ話題。

俺は自分の席を立ち、彼女に近づいた。

「はじめまして、俺……」

「死ぬわよ?」

自己紹介の途中、小さな声なのに耳に入った言葉。

教室は一瞬、静まり返る。

青ざめるクラスメイトの数人が後退り、それに連なるように……叫び声と共に教室から、全員が出て行った。

状況を理解できない俺を、彼女は静観した視線で、ため息交じりに答える。

「私は烏。私に関わると、すべてを失うわよ。」

「……御守を持っているの?」

彼女は視線を逸らし、俺の質問に答えなかった。

どうすればいいのか立ち尽くしていると……


「白鷺、近づくな!来いよ。知りたい事は、俺が教えてやるから。」

声のする方に目を向ければ、教室の入り口に、面倒臭そうな表情の幼馴染。

同じ血縁の北巣 愛鷹 (きたす あしたか)。

その後ろに女子生徒が数人。きっと、この状況を伝えに行ったのだろう。

「西嶌、ごめん。また話をしよう?」

視線を戻して話しかけたが、目が合うことも、返事もなかった。

どう接していいのか迷いながら、俺は、愛鷹の方へ小走り。

俺が近づいたのを見て、愛鷹は後姿。

「付いて来いよ!」

愛鷹は速めに歩き、適当な場所を探しているようだった。

「愛鷹。俺は、彼女に近づいてはいけないのか?」

返事は無く、空いた教室を見つけて入る。会話を聞かれると不味いのかな?

愛鷹は、教室の奥に足を進め、窓際にある机に座った。

「……ちっ、片鱗が俺らの代に現れるなんてな。しかも、俺か……お前の、どちらか。」

片鱗?

「白鷺。お前は、どこまで“烏”を知っている?」

どこまで?

不思議な顔をした俺に、愛鷹は笑う。

「くっ……くくっ。はっ!笑えねぇ。マジかよ?本家は、お家を手放すのに慣れちまったのか?冗談じゃ、ねぇ!たかが女一人に、何代もの不運。狂った男共の末裔……」

何を言っているのか、全く分からない。
ただ、自分と血族の衰退は知っている。それは、時代がもたらしたとばかり……

不運を招いたのは“烏”?

「全く知らないんじゃ、話にならねぇ。話が長すぎて、付いて来れねぇ~ぜ?」

何も理解できていない俺の様子に、どうするのか選択を促す。

「それでも、聴きたい!」

俺の願いに対して、愛鷹は、ため息。

「白鷺、俺達の名前には鳥の名前が、必ず入っている。それが何故なのか、知っているか?」

質問が増えていく。

「……風習だからだと聞いた。」

「そうだな。白鷺、気付いたか?血族に“西”は、無かったんじゃない……そばに居なかっただけなんだ。古巣に、帰って来たんだよ。災いと共に……」

西嶌烏立。ニシにカラス。

俺の名字が“東”。

愛鷹は“北”巣。

……もう一人の幼なじみで血縁“南”嶋 鷲実 (なしま すみ)。

東西南北。血族。

「愛鷹。西嶌は、同じ血族なんだよね。何故、災いを招く必要が?」

この地から離れ、それでも同じ血を流す……同じ家系が何故……

「祭りが近いな。白鷺、他の土地では神事に述べられるのは祝詞なんだ。しかし、この土地は忌詞。不吉な預言。幼い時から何度も耳にし、その度に俺は悪夢を見た。」



『烏よ なぜ啼くのか 烏は山に 御守七つと 子があるからよ 可愛 我が子を思い 烏は啼くの 可愛 我が子が 可哀相だと 啼くんだよ 山の古巣へ 行って見て御覧 仇の眼をした 七つの烏だよ』




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