諸々ファンタジー5作品
『戴冠式』



人々が見守る城の高きところ。

そこに、彼がいた。同じ学び舎の彼……

「王だって!ちょっ、私……何かしたかな?失礼な事……」

ブレシニーは、興奮と何かに動かされ頬が紅葉している。

『気にしなくていい。』『勉強だよ。』

予測した紙を見せながら、ロストは、ため息を吐いた。

そう、若き王子の世間勉強。そこで得たものは…………



ロストは、知識から理解した。

自分に関わってくる彼を、何度も遠ざけようとしているうちに……記憶の何かが紙に出てしまう。それは、今、戴冠した王の本当の名……

『いい加減にしてくれ! カイディール、君は ど』うして……

怒りに、学び舎での仮の名ではなく、本当の名を書いたロスト。

我に返り、ロストが手を止めた時には……その文字が、この世に存在した後だった。

それを見たカイディールは、王の資質が自分にあることを確信する。

ロストの秘められた力、奇跡のような言葉。衝撃と感動と……恐れ……カイディールの感情を塗り替えていった。



そして、ロストは学ぶ……“怒りが身を滅ぼす”のだと。



カイディールの思惑は、貪欲に染まる。

ロストに隠された知識が、自分の大切なモノ……それだけを、護れると。

願うのは、小さき世界。ロストの願うものと同じだった。

彼の策略が始まる。残虐な計画……

心が痛まなかったか?痛んだのを知っている。

身近で、ワタシは見ていたのだから…………



ブレシニーの身の危険に、ロストの運命が動き始める。

彼の声と、忠誠……それを望んだ若き王カイディール。

大切なモノを護るには、どれほどの力が必要なのか……知って欲しい。



若き王。その誕生に、この小さな国は、未来をどう見ただろうか?

大国に、圧迫を受けながらも平衡を保つ以外……凱旋も、ないだろう。多くの者が、そう思っていた。

これから、その凱旋も……夢だったのではないかと思う日が来る。



この国の結末……

それも、預言のように。定まったものだったのかもしれない。



『小さき少年。心許すな……自分を守るため、愛するものを護るために……。もし護るなら、選べ。自らの死を』





戴冠式のその日、城下町は賑わう。夜の闇を覆すような光。

ざわめく心に、ロストは森へと入る。それを追うように、ブレシニーは森へと入った……はず。



静かな森に、ロストは夢を見る。

明るい光……違う。記憶にないはずの光景。

苦しい。燃えるような感情……嫌だ。奪わないで、置いていかないで。お願い……



青年の心に、何がよみがえるのか……



「ロスト!ブレシニーは?ブレシニーは、どこだ!」

大声に、目覚めたロストの額を汗が流れていた。ブラウンドの見たことのない取り乱した姿と声。

高い木に、ロストだけなのを見たブラウンドは地面に座り込む。

何かがあった。ブレシニーが、いない?

不安に、ロストは高い位置にある枝から、バランスよく飛び降りる。

ブラウンドの肩に手を伸ばすと、その腕を強く握られ、痛みに、ロストの表情は歪んでしまった。

「……はっ、すまん。力が………………くれ。……ロスト、助けてくれ。」

絞り出すような声に戸惑い、ロストはブラウンドの言葉に耳を傾ける。

「……ワイン工場の奴らは、分かるか?」

うなずいて、次の言葉を待つ。

「もう、俺のところには戻らないだろうと……その言葉だけを残して、去った。」

ブレシニーが、連れ去られた?

「工場の奴らが言っただけ。そこには、どんなに探しても居なかった。」

ロストは思考が止まり、感情の混乱に頭が真っ白になるのを感じた。

そして、ブラウンドを森に残し、歩き始める。徐々に早くなるスピード……走り、走って……闇雲に。



もうじき夜明け。

城下町には、酔った人々が幸せな夢を見ている。

力尽きる体力の限界……水際に、かがんで息を整える。そして、上る陽……真っ赤に……地面を照らす朝焼け。

水に映って、それは……まるで……



 血



「……ぅ……ぅう…………ぁ、あああぁああああ~~~~!」



声と共に、この世に現れたのは、憎しみ……だったのか。彼の記憶が先だったのか……

ロストの眼に、戴冠式の行われた城が映っていた。

それも、朝焼けの“赤”



何かを予言するかのように…………




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