カスオくん

母さん

どれくらい時が過ぎたのだろう、ふと気がつくと僕は布団の中に寝かされていた。

おそらくスペシャルリンチの途中で気を失ってしまったんだろう。
何しろ二対一の変則マッチだ。

だいたい帰りが遅くなった息子を裸にしてプロレス技を掛けたりロウソクを垂らす、
そんな家庭がどこにある。
僕がグレて不良になってしまわないのが不思議なくらいだ。

まったく理解に苦しむ家族だと思いながらゆっくり目を開けると
そこには僕の顔を心配そうに覗き込む母さんの顔があった。

「カスオ! やっと気がついたんだね」

母さんは微笑みながらそう言ってくれた。
やはり母さんだ。母さんは天使だ。
生みの親でもあり、命の恩人でもある母さんだけはどんな時でも僕の味方なんだ。

そんな天にも勝る母の愛を全身で感じていると突然、右の頬に激痛が走った。

あろう事か天使のはずの母さんが微笑んだまま表情ひとつ変えずペンチで僕の頬をつねっている。

「カスオ、母さんの下着を知らないかい? うなされながらパンティがどうのって言ってたけど・・・」

あまりの激痛に口を動かせず、首を横に振るのが精一杯だった。

「そうかい、知らないのかい。お気に入りのが一枚見当たらないんだよね」

と母さんは納得がいかない様子で去っていった。
僕はそのうしろ姿に
「自分の息子をつねるのになんでペンチなんか使うんだ」と心の中で叫びながら
「さすがは閻魔大王の女房、そしてメデューサの母親、タダ者ではない」と思った。

あのペンチはきっと嘘吐きの舌を抜く時に使う仕事用の工具に違いない。
ロウソクにペンチか・・・ やはりこの家の住人、芋野家ファミリーは僕以外みんなおかしい。

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