恋は思案の外



「……天気酷いから帰れるかなあって思ってただけ」

「あ?あぁ。 んじゃあ一緒に帰るか。待っててやるよ」

「一緒に帰ることに何のメリットがあるのかがわからない」

「だってお姉さんチャリっしょ?ひとりでチャリ押して~傘差して~、ってめんどくせーだろ」



――んでチャリ置いて帰ってもこの天気じゃそのチャリも飛ばされちゃうんじゃね?

今まさに「チャリは置いて帰る」と言おうとしたのに、まるでそれがわかっていたように遮られた。



自転車屋さんが言うんだから、本当に飛ばされちゃうのかもしれない。

しかもちょっと真剣な瞳で言うもんだから、どきりとした……のは、チャリが心配だったからでっ!別に意味はない!!




「いつ終わんの」――ひとり動揺しているところでそう聞かれたから、「あと30分」なんて特に深く考えないで答えてしまった。







「じゃあ事務室で待ってんね」



それが失敗だと気付いたのは、男がそう笑顔で手を振って目の前から消えた後。数秒後だった。



「って、あぁ…!」



これで一緒に帰ることが確定してしまった。 最 悪 だ 。



「っていうか事務室って……」



ひとの店の事務室に勝手に入るなよ!バカなのか!バカだね!



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