恋は思案の外


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次の日。

昼からのシフトだったのにいつも以上にくたくたになったわたしが、家路につこうと愛車ハヤテ号に跨った夜のなか。



自転車屋の煌々と漏れる蛍光灯の光に気付いた。そこに居る、男の姿にも。



見慣れたよれよれのスウェットとサンダル、ぼさぼさの髪の毛がこの場所からでも確認できて――









「あれ? お姉さんどうしたの」



自転車屋を訪ねる理由は、ここに着く前に必死に考えた。


何を必死になって考える必要があるんだと思ったけど、やっぱりそれなりの理由がないのに自転車屋にわざわざ寄る意味がないだろうし。



「……ねぇ、ハヤテ号に空気入れ――」



じゃあ何でわざわざ理由をつけてまで自転車屋に行く必要があるの、と言われたら。それは――



「ひ、髭が……!」

「あ?」



わたしの存在に気付いた男がこちらを振り仰いだとき。



「髭、生えてんじゃん!!」



よれよれのスウェットとサンダル、ぼさぼさの髪の毛。


それに、スーパーの自転車置き場からでは気が付かなかった、髭。




――うん、これだ。


見慣れた男の姿を確認して安堵したのは、きっとわたししか知らない。と、思ったけど。



「そりゃ、男は1日で髭が生えるもんなんですー」

「1日でそれだけ生えるなんておかしいだろ!元通りじゃん!」

「あー、そうそう。昨日結婚式行って思ったけど――」



結婚て、いいよな。

そう、わたしの目の前にふらりと立つと、次の瞬間には。




「俺達もそろそろ、結婚しようか。」




にんまり笑って、そう言ったコイツにはもしかしたら。


わたしの複雑な気持ちだとか安堵したことだとか、すべて。




すべて、お見通しだったのかも、と。







「だーかーら! 結婚しねぇっつーの!」

「えー。なんでー」






変わらないヒト科の男を見て、思ったり。








    不変のなかに変化ありです
(結婚の前に、付き合ってすらないだろーが!)




        * imu



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