恋は思案の外
ところで割れたスイカって




ミーンミーン、茹だるような暑さの中じわりと浮かぶ汗を腕で拭った。

夏も後半。残暑よ立ち去れ。

聞こえてくる音の大部分を占めるセミたちの大合唱。


わたしの視線を背中に受けながらせっせと準備に取り掛かるのは、例のヒト科。

その手にはビニールシート。

そして大きな大きなスイカ。

辺りに散らばる木刀。それ、アンタ一体どこから持ってきたの。



無気力なわたしはツッコミもせずにただただ立ち竦むばかり。

嗚呼、早く帰りたいんだけど。

クーラーの風に当たりながら昼寝でもしたいんだけど。

て言うかその前に、シャワー浴びたいんだけど。



どうして貴重な休みをこんなヤツと過ごしているかと言うと、それは。

昨日のパート時間にまで遡ることになる――







       * * *






『おーねーえーさんっ』

『ギャッ』


もういい加減その登場には飽き飽きして――いる筈なのに良いリアクションを取ってしまったわたし。

前のお客さんを送りだしてから視線を戻した瞬間、耳朶に送り込まれた声音と息に飛び上がるほど一驚を喫したわけで。

おそるおそる視線を上げてその犯人を目視する。

そんなわたしの視線を受けてニヤリと口角上げてみせるその犯人。


レジカウンターに身を乗り出してそんなことをする人間なんてヒト科以外に居る筈もなく。





『なあなあ、明日休みだろ?暇――』

『ヒマじゃない』



持ち掛けられた提案を全て音にされる前に一蹴してしまうが善。

て言うかコイツは何故わたしの休みを知っている!?

まあ……どうせ気の弱い店長を脅して吐かせたんだろうけれど、もはやツッコむ気も失せて白けた眼で見据えてやった。

すると何故か『そんなに見つめんなよ、気持ちはわかるけどさ』なんて言い出す始末。




は?




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