恋しくば

「葛野誠?」

二つ目の揚げ物を咥えていると、前から声がした。顔を上げると勿論視線が合う。
頷いて見せると、辻本が箸を置いた。

どうして名前まで知っているのだろう、という疑問が湧く。辻本の名前をあたしが知っているように、辻本があたしの名前を知っているのは普通のこと、とは思えない。

「緒方高校の?」
「え、どうして」
「予備校の模試で、名前を見たことがある」
「へえ、辻本って予備校通ってたの?」

すごく怪訝な顔をされた。
だって、お金持ちって

「家庭教師ついてるイメージ」
「普通に通ってた」
「それは失礼しました」

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