オネエが野獣になるときは。
「…なんの冗談ですかこれ」
「それが冗談じゃないのよ」
私の目の前に座るのは、相変わらず綺麗なお顔の久我社長。
「冗談じゃないならこれは夢ですか?」
「…残念ながら夢でもないわ」
小洒落たレストランで向かい合う私と社長の間のテーブルには、一枚の紙切れ。
「さっき話した通りよ。これにサインしてほしいの」
…いくら社長でも、冗談はオネエってことだけにしてほしい。
っていうか、そろそろ私の理性が崩れそうだ。
もう冷静を保つとか無理でしょ、この状況。
「ほら、早くサインして?」
久我社長の言葉で紙切れに視線を戻したところで、私の理性はいきなり音を立てて崩壊した。
「…できるわけないじゃないですかっ!!婚姻届にサインなんて!!!」
上司と部下。それ以上でもそれ以下でもない私達の間に、どうして婚姻届なんかが置かれているのか。
それは1時間前の、とある電話が原因だ。