不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「翠、シャワーを浴びて今夜はここに泊まっていけ。あまり出歩かない方がいい」
「うん、そうさせてもらおうかな」

俺たちは身体を離し、それぞれにシャワーを浴びた。翠は俺のTシャツと運動用のハーフパンツの腰紐を縛って履き、寝巻きにした。

「と言っても、なんか眠れそうにないよ」

ベッドのシーツを替えて勧めたが翠が渋る。

「私、ソファにいるわ」

色々ありすぎて神経が高ぶっているのか、翠は本当に眠くなさそうだ。

「おまえさえ良ければ、映画でも見るか」

俺はBlu-rayディスクを取り出して見せる。この前見逃した映画の前作だ。

「あ、うん。見る」
「この前の映画、本当にごめんな」
「今度、また行こう。ロングランになるみたいだし、まだやってるよ」

ディスクをセットして、翠の横に座りなおす。さっきと同じ近い距離に座ってしまったが翠は嫌がるどころか、俺の腕に身体をもたせかけた。
俺はまた勝手にドキドキしながら、翠に言った。

「風間さんの件は、本当に何もないからな」
「わかってるよ。感じ悪くしちゃってごめんね」

翠は画面を見たまま唇を尖らせている。その表情が可愛いとは思っても言わない。

「風間さん、豪のこと本気で狙ってるんだね」
「ああいう女狐タイプは無理だ」
「じゃあどういう子がタイプなのよ〜」

タイトルが液晶画面に映る。俺は翠を見ないように答えた。

「普通のヤツ」

ここで、「おまえだよ」なんて言える神経は俺にはない。
夜は静かにふけていった。
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