不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
最悪だ。デートに誘うどころか、険悪度合がマックスになってしまった。
しかし、今回は翠に問題があるだろう。翠はまだチャラチャラと男遊びをするつもりなのだ。だから、俺にも好きにしろと言うのだ。
いい大人だぞ。斎賀本家を俺と継ぐ覚悟はあいつにはないのか?翠の好悪は別として、一緒にやっていくパートナーだと思っていたのに。俺の空回りだったのか。

虚しい気持ちでオフィス側のドアを開けると、そこには局長を始め、六川さんたちベテランメンバーが詰めかけていた。

「ちょ、え?なんですか……」

凍り付いて思わず声が上ずる。

「斎賀~」
「豪、おまえさ~」

口々に俺を呼びため息をつく諸先輩方。もしかして、今のやりとりは全部聞かれていたのだろうか。

「盗み聞きですか?」
「いやいや、エキサイトしてくるとおまえら声でっかいよ」

雁金さんがぼそりと言い、他の皆がうんうんと頷く。俺は青くなっていいのか赤くなっていいのかわからない。

「可愛い婚約者に、『他の男と行け』はないよな」
「朝比奈、可哀想」
「今頃、泣いてるんじゃないか?」

可哀想なのは俺の方だと思うけれど、諸先輩方はそうじゃないらしい。局長がニヤニヤしながら口を挟んでくる。

「ふたりのことはふたりにしかわからないと思うけれど、豪は余裕なさすぎだと思うぞ~。器の小さいところは仕事にも出てきちゃうかもな~」

余計なお世話だ、おっさん。と思いつつ、身内とはいえ上司なので反論ができない。

その後も、俺は先輩と上司に散々ディスられながら残業をする羽目になった。翠はオフィスに戻ってこなかった。


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